−第2話 「海頼 登場」
目の前の子供は自分を神だと言う。 俺には魔物が人間に化けたようにしか見えなかった。
<雛夏山付近 宿屋>
・・・・冗談じゃない。神だと? 頭がおかしいのか、それとも自分が幻覚を見ているのかの 山を降りきった時には息も切れぎれで、フラフラになりながら 自分の部屋の戸を開け、寝台にもぐりこもうとしたとき 見ると、椅子にさっきの白い子供が座っている。 息一つ乱れていないその子供は 「私は守り神など必要ない。他を当たってくれないか」 朱達は投げやりに言いながら、寝台に倒れ込んだ。 「私のことは青白岐(せいはくき)と呼べ。それから、朱達といったな。 子供が何か言っている。それに構う気力もなく、ただ目を閉じた。 「おまえが死なない限り私はおまえの使い魔だ。 ・・・勝手なことを言うな・・・ そう思ったが、朱達は何も言わずにいた。
<宿屋 屋根上>
もっとよく観察してから 青白岐は後悔した。 「なんだあの男は。あの腑抜けぶりは・・・」 思わず口にしてしまう。山で会った時には強い憎しみの念を感じた。 「普通、神を手に入れれば人間は喜ぶものではないのか?」
青白岐自身、山の神から人の使い魔へとなって 姿も無力な子供のままだ。 もっと力あふれていた時期には 老人にも青年にでも 「・・・それだけ朱達が私を信じていないということか」 青白岐はいらだたしげに舌打ちし、屋根にごろりと寝転んだ。 「やはり選ぶ相手を間違ったかもしれない。」
<酒場>
部屋に戻って1時間ほど寝てしまっていたらしい。 戦の後の街は静かに、確実に活気づきはじめている。 朝から何も食べていなかったことを思い出し、夕食をとろうと その間、一度も子供・・・青白岐の姿は見えなかった。 諦めて帰ったか。
酒場は騒がしく、集団で笑い合っている者達や 喧噪の中、今日あったことを思い出していた。 「羅の王を討つならば、私も協力しよう」 あの子供は奇妙なことを言っていた。 この俺が王を討つ? 「ありえん。」 そうつぶやいて、食卓に突っ伏した。 金もいつかは底をつく。 どうやって生きていけばいいのかなど、
「高先生か?」 頭上で、声がした。うつぶせていた机に、何かの重みがかかる。 「あなたの名は高朱達、ではないか?」 低めの声でゆっくりと話す。 名前を呼ばれ、答えていいものかと迷う。 「・・・人違いだろう。」 そう答え、一口分残っていた酒を飲み干す。 朱達は席を立とうとした。それを男が制止する。 「まぁ待て。俺は羅軍でも何でも無い。 そういうと、男は向かいの席に腰をかけた。 酒樽を開けながら、男は話を続けた。 「俺の名は海頼 海頼と名乗る男の話を酒を飲みながらぼんやりと聞いていた朱達だが、 「あなたも国を滅ぼされたのか?」 海頼はこくりと頷いた。 「ああ、それに羅の王は学者を毛嫌いしてるだろう。 海頼はそう言うと、酒場をふりかえり辺りを見回した。 「何年か前に、どこぞの学室であなたが論台に立っていたのを 朱達は市政の役人に着く前は、都で学者をしていた。 あながち羅軍ではないと言っているのが、 そのことに安心し、朱達もポツリポツリと自分のことを話しはじめた。 この混乱の情勢で、古代地図の話に熱中している二人は 朱達はそんなことを思った。 「出ようか、朱達どの」 気付けばもう店じまいの時刻で、客も数人しか残っていない。 外はもう暗く、
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