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第1話 2

 

 

 

<雛夏山>

朱達は宿屋を出て、ふらふらと歩き続けた。
これからどうしていいかわからず、
一生羅軍に恐れながら生きるのかと思うと
無気力になるだけだった。

自分の名を呼ぶ人はもういない。
帰るところもない。

いっそ死ねばいいのだろうか、そんな風に思ったりもしたが
命を賭けて逃がしてくれた文官や妻のことを考えると
それはしてはいけないことだとわかっていた。

 

   俺一人で仇を討つか?

   あの羅の王に?

 

大海に小舟で臨むようなものだ。無理とわかっている。

仇も討てず、生きる支えも無い。

 

  俺はどうすればいいのだろう

  あの羅軍が憎い

  ただ、憎い・・・

   

無意識に道を歩きながら 朱達がふと、足を止めると
そこは登山道の手前だった。

そばには石碑が建っていたのだろうか、崩れ落ちた石が散らばっている。
石を手にとると、「雛夏山(ひなつざん)」と読める文字があった。

  山?

見上げるとその山は焼き討ちにあったようだった。
木は焼けこげ、はげ山になっている。

  羅軍の仕業か。

まるで自分のような山ではないか、そう思い
朱達は登山道を歩きはじめた。

 

 

<雛夏山 頂上>

もくもくと山を登りつづけると、わずかな時間で頂上までたどり着けた。
山というより丘のようだ。

頂上には祠と、かなりの大きさの藤の木があった。

どちらも徹底的に破壊されている。

羅国の王は、自分の国に長い歴史が無いことを気にしていたらしい。
占領した国々で、その国の歴史書を焼き払い、奉る神をことごとく破壊した。

この山もおそらくそう言った理由で焼き払われたのだろう。

 

   本当に俺と似てるな。この立場が。

 

そう思うと、なんだか疲れてしまった。
登り続けたせいか、足も少しだるくなっている。
少し休もうと思い、その破壊された藤の木にもたれ座り込んだ。

その時

 

 

 

   ・・・ おまえは だれだ・・・?

 

 

 

唐突に、頭の中に声が響いた。

不意の呼びかけに飛び起き、周りを見た。
持っていた短剣を構え、辺りを探ったが
誰の気配も感じない。

 

  何だ? 今の声は

 

「おまえは誰だ?」

今度ははっきりと耳に聞こえた。
声のした方向を見ると、そこには子供が立っている。
白い髪、真っ白な肌。

一目見て普通の子供ではないとわかる。

「おまえは誰だと聞いている」

子供は、もう一言付け加えた。
朱達は少し震えながらも、その子供の様子を観察した。
よく見ると、表情が苦しそうだった。息が上がっている。

「わ・・・私は朱達という。
あなたは一体・・・」

それだけを言うのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

「私はこの山の神だ」

青白岐は目の前の男にそう告げた。
もはや諦めた心地で体が怨念に浸食され始めたとき
唐突にこの男が山に現れた。

なにやら強い気が青白岐に語りかけてくる。

それは憎しみの心だった。

山を登るその男は、自分と同じく強い呪いの念を持っている。
羅の王を憎む気持ちが強く青白岐に共鳴してきた。

  この男も羅を憎んでいる

体の浸食が、止まった。

  こいつで、いいか・・・

怨念に満ちた魔獣と化すよりも、幾分マシかもしれない。
そう、自分に言い聞かせた。

 

  この男に宿ろう。
  人間の使い魔になれば

 

  魔獣に墜ちることも無い

 

「私はこの山の神だった。今や山は焼き払われ、私にはそんな力は無い。
だが、おまえを守る神くらいにはなれるだろう。」

子供の姿に化け、男の前まで歩んでいく。既にあまり自由のきかない体は重く
数歩の歩みもとても苦労するものだった。

重い右手を男の前へ差し出した。

「手を取れ。私がおまえの使い魔になろう」

目の前の男は、怪訝な表情のまま動かない。

「おまえの憎む羅の国王は、私にとっても憎い。
だからおまえの守り神となってやる」

男はその手を取ろうとはしなかった。

 

  早く手をとれ、この人間め・・・!

 

もはや待つ時間は無かった。青白岐は男の左手を無理矢理つかんだ。

「離せ 化け物!!」

そう、男は叫んでいた。しかしもう遅い。

 

  獣になるよりは、マシだ

 

青白岐を蝕む怨念は、飛び散った。

 

 

<雛夏山 明け方>

朱達が意識を取り戻した時、空は明るかった。
鶏の鳴き声が聞こえる。

  なんだったんだ?さっきのは

目の前に白い子供が現れ、神と名乗った。
無理矢理自分の手をつかみ、その後の記憶がない。

「夢か」

はぁ、とため息をつく。
木の根から体を起こし、立ち上がった時頭上から声がした。

「夢では無い」

見上げると白い子供が木の枝にぶら下がっている。

「私はおまえの使い魔となった。
一応、おまえが主だ。
なんでも命令を言え」

驚きのあまり声が出ない。

  自分は戦乱のせいで頭がおかしくなってしまったんだろうか?

白い子供は枝から降りると、一言付け加えた。


「羅の王を討つならば、私も協力しよう」


その言葉が、彼のその後を決める
大きな道標となることを、今はまだ知らなかった。

 

 

(第2話へ)

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