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04

七夕の夜は嫌い

無意味な過去を思い出す

真っ赤な日だった 

 

<天青劇場 周辺 夜11時>

シェルの家はねこの住む梅水地区より4キロほど離れたところにある。近くに大きな劇場があり、
周りに住宅地が密生している。そこの一角にあるアパートが、シェルの家だ。
螺旋階段を上がり最上階。天気がいいときはなかなかの見晴らしだ。
シェルが家にもどってくるとそこに 誰かの気配がした。

 誰だ?

目をこらすと、そこにいるのはシェルのよく知る人たちだった。

「ドクター、 と フロント・・・」

黒十字の医者と梅水花園のフロント係・トニーが居た。
なんでここを知ってるんだ?と聞こうとするよりも早く 医者がシェルにかけよってきた。

「シェル、ねこはここに来ているか?」

「いや、来てない。今日は誰かの予約の日じゃ・・・」

シェルが答えると医者とトニーは顔をみあわせる。その表情は固い。

「・・・ねこに何かあったのか?」

 

トニーが話すのを待っていたようだが
彼があまりにも沈黙を保つので 医師が口を開いた。

「眠り姫が行方不明なんだ」

 

 

<梅水花園 ・ 夕刻(事態が起こる前) >

 フロント係・トニーは今日は朝から忙しかった。大口の客が来るのだ。
外国の議員・タキタ氏が、眠り姫に会いにくる。


一年に一度のペースで 眠り姫に会いに来る客が割にいる。

「トニーさん どんな花を飾ります?」

雑用係の少年が注文を取りに来た。

「タキタ様は赤い花がお好みだ。朱系で頼むよ」

「わかりました 俺はカーネーションが好きだな」

少年は花屋に向かった。

 

花園の近く、路地の花屋に着いた少年は
花屋の主人に花を注文した。
彼は待っている間、外でタバコを吸う。
少年の名はライといった。


「ライ、何時に届けりゃいいんだ?」
「すぐ届けてよ 今日のお客はお偉い様なんだ」
「・・・ッ 」

微かに 声が聞こえた。

「おっちゃん なんか言った?」
「いやっ なんでもないっ ちょっと待ってろ」


何か慌ててるようなカンジだったが、あまり気にしなかった。
忙しいのだろうと。


 

<花園 ・八時 >

「ねこ、お客様がいらっしゃった」

内線からトニーが連絡する。
ねこは受話器を置いてソファーに腰かけた。

 おじいちゃんが来るのは久しぶりー

タキタ氏をねこはおじいちゃんと呼ぶ。


 色々話すことがあるわ。オペラのこととか、新しいお客のシェルのこととか

 

コンコン

ノックの音がした。ドアを開ける。
そこにはタキタ氏の姿は無い。シェルくらいの歳の男が立っていた。

「・・・あなたは だれ?」

夏なのに真っ黒いコートを着て、冷たい目でねこを見た。

「私はタキタの息子だ 」

「おじいちゃんの・・・?」

「そうだ。
    ・・・さぁ 眠り姫、ゲームをしようじゃないか」

その時、はじめてねこは身の危険を感じた。

 あたしに 何を  ・・・ ?


部屋を後ずさる。緊急用のボタンが部屋の各所に配置されているので
それを押そうと思った。ねこは急いで走ろうとしたが、足がもつれた。

男はねこの手を易々と捕らえ
首筋に打撃をあたえた。
ねこの視界は白ぼけていく。

「眠りの子と呼ばれているからな 睡眠薬は効かないだろう?」

答えの無い問いをつぶやき、男はねこを抱えて窓から出て行く。
部屋に飾られた赤い花を踏みにじりながら。

 

 

 

5分後、タキタ氏が部屋に入った時 事態が発覚した。

踏み潰された花が 尋常ならぬ事態を示唆していた。

 

 

「いったいどういうことなんだ」

タキタ議員、花園の警備や住人達は事態がなかなか飲み込めなかった。
この界隈で、眠り姫に敵意を持つ者など 誰一人いないと思っていたし、事実そうだったからだ。

市警に連絡し捜索させたが二時間たった今も何の情報も無かった。
皆がいらだちはじめた頃、トニーが戻ってきた。心当たりを探すと言って出て行ったままだった。


「トニーさん ねこは」

「見つからない。そっちは」

「まだです。何の手がかりも無い」

ライはトニーがどれだけ心配しているかよくわかっていた。いつも温厚なこの人の表情が凍りついている。

「部屋はどこだ。見せてくれ」

トニーの後ろに二人の男がいるのをライは気付いた。
黒十字の医者と、最近のねこの常連客、シェルだ・・・。

医者が シェルの後を追い、エレベーターに近づいていった。
ライも後を追う。


「あんた、どうしてここにいるの」

ライはシェルに問うた。シェルは、何も答えなかった。

 

ねこの部屋に入ると 夕方ライが花屋で買ってきた花たちが絨毯に散らばっているのが目に入った。
 
 いったい誰がねこをさらったんだよ・・・!!

ライは踏みにじられた花を見て、怒りを覚えた。その時だ。

「ドクター、何か匂わないか」

シェルはこの部屋の異変に気付いた。微かに 何かが香る。
柑橘系の匂いだ。

 この匂い 俺は 知っている 
 

「なんの匂いだ シェル?」

 あの日も使った匂い

「・・・あの毒・・・」

花を見つめたままつぶやくシェル。
後を追って、トニーとタキタ議員達が部屋に入ってきた。

「この花は毒草だ 体の動きを一時的に効かなくする」

医者もハッとしたように口を押さえた。

「この花で 眠り姫は さらわれたのか・・・」

 

「ばかな、それは花園がわざわざ用意したんだ。毒なんか」

トニーがシェルに問いつめる。その時、ライは思い出した。
花屋の主人の様子がおかしかったことを

「花屋が犯人・・・?違う、誰かに脅された・・・?」

ライは花屋での出来事を話した。あのとき、もしかしたら誰かが花屋にいたのかもしれない。


「わざわざ花屋を脅してまで準備させたヤツがいる。それも 今日議員が来ると知っていたヤツだ」

シェルは議員にたずねた。

「きっとアンタに恨みを持った奴だ。
 考えろ、誰がこんなことをしたか-」

 

その時、電話が鳴った。警察の逆探知の合図も待たず
トニーは電話をとった。

 

『タキタはいるか? 眠り姫に会いたいか?』

 

 

 


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