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04

ダリアは暗闇にいた。

 

目が覚めたら病室のベッドだった。薄暗い、しずまりかえった場所だった。
なま暖かく、首にびっしり汗をかいている。
もうろうとした意識で起きあがると、 殺したはずの男が隣に眠っていた。


  わたしはどうしてここに?

よくみると 自分は白衣を着ていた。手には注射針、首には聴診器をぶらさげている。

  そうだ、鼓動を確認するため。
  本当に死んだかどうかを確かめないと

ダリアはベッドを降り、そろりと死体に手をよせた。
かぶり布を払いのけ、胸をみると。

そこに生首があった。まんまるい目で自分を見ている。
ダリアはおもわずのけぞる。後ろにたおれこみそうになった。

その様子を見て、 生首は楽しそうに笑い出した。

「キャキャキャ。血をおくれ ダリア もっとちょうだいな」

笑いながらも口からは血がぼたぼたしたたり降りている。

猿のように五月蠅い鳴き声をあげ、血をまき散らしながらもっと血をくれ、血をくれと騒ぐ。

「あと9つ死体をおくれ

そうしたらおまえの欲しいものをすぐさま与えるのだから」

生首はそういって男の死体を貪りはじめた。
全身におぞましさを感じたダリアは手にもっていた注射針で生首の頭を刺す。
汚い悲鳴をあげ、生首は動かなくなった。
世界は静けさを取り戻す。

 

 

<ダリアのアパート AM8:00>

 

目がさめると、自分の部屋だった。
飛び起き、周りを確認する。

  大丈夫。生首は夢。これが現実。

自分にいいきかせ、もう一度ベッドに倒れ込んだ。

−こんな夢ばかり見る。

誰かを殺して、その死体を見に行くと、生首が出迎える。

なんど生首を殺しただろう。

依頼者はたった一人しか殺せていないのに。


窓に目をやるともうすっかり明るかった。すがすがしい朝の空気、鳥の鳴き声。
どんなに美しい光景が訪れようとも、ダリアにとって、悪夢も夜明けも同じだった。

TVをつける気にもなれず、新聞も見る気になれない。
どうせ、あの劇場の事件のことが書いてあるのだ と思うと見たくなかった。

昨夜が一人目だった。
”あと9人”。生首が言った数字が重くのしかかった。

先ほどの悪夢を思い出した。
いつも一人で寝ているとあんな夢しか見ないけどー・・・
昨夜、真っ暗闇から目が覚めたときは隣に女の子がいた。
天青劇場で会った女の子。

ねこ、という子ー・・・

 

 

<黒十字病院 私室スペース AM9:30>

「まさか出て行くとはなぁ」

新聞を読みながら能天気に黒医師がひとりごとをいう。
キッチンで目玉焼きを作りながら、 シェルは「・・・ドクターが寝ちまうからだ」と
ぼやいている。
ねこは手絞りオレンジジュースなるものを作成中だ。

「だいたいシェルだって 外いってたじゃないか。俺が警察行っている間に」

痛いところをつかれたらしい。黄身をさいばしで突き破ってしまう。

「ただ 俺は、 その、、大丈夫かと思ったから」

ねこを置いておいても、殺されることは無いだろうと思ったから。

「・・・先生、あの人にまた会えるかなぁ」

ねこが黒医師に問うと、新聞を読むのをやめて、くしゃくしゃにたたんでねこに渡した。

「あの女がどうして気になるんだい」

「・・・」

ねこも黒医師も、お互いの質問に答えなかった。

 

 

「黒医師はおられるか」

病院の入口から声がした。まだ開業時間じゃないぞ、と
奥から顔をのぞかすと暑苦しいトレンチコートを着た東洋人の男が立っていた。

「どちらさん?」

黒医師が男に話しかけると、東洋人の男は胸ポケットから警察証を取り出した。

「昨日、検死に立ち会ってた者だ。私は刑事の梨刀と言う」

「アァ、きのうの刑事か」

「話があるんだが よろしいかな」

「良いも悪いも無いんだろう、きっと」

黒医師と刑事は診察室に入っていった。

 

 

二人が部屋から出てこないので、シェルも
そのまま仕事に行くことにした。

「ねこ、俺は行くから。花園には帰れるよな?」

「服屋さん何時まで?」

「8時。じゃぁな」

ねこにひらひらと手をふり、シェルは足早に病院を出て行った。


 

 

 

<診察室>

「昨日あなたが言っていたことだが」

刑事が検死報告書や写真をがさがさ取りだして話しているのをよそに、
黒医師は刑事の顔をじぃと見てた。

黒髪は整髪料で一本の後れ毛もないほど整えられ、
しわ一つない真っ白なカッターシャツに焦茶のスーツを着ている。

性格があらわれとるな、とぼんやり考えていると、刑事は急に厳しい表情で
話を止めた。

「聞いておられるか」

「・・・聞いてるとも」

しょうがないので刑事の話を真面目に聞いていると、刑事は意外なことを言い出した。

「昨日あなたが言っていたことだが、”是空”というものを
あれから調べた。 ゼロサツ(零殺)とも言うらしいな。」

「は・・・?」

「黒医師、昨日私に言ったではないか。”是空”を知っているか、と」

「刑事さん、それを調べたのか。本当にあるのか そのー」

「是空は存在する。いや、したことが確認されてる」

ようやく黒医師が興味を持って聞き出したのを見て、
刑事も乗り気で話し出した。

「−19年前のある暗殺事件でその方法が使われていた。
どうやって殺したかわからない当時に、奇跡的に捕まえた犯人は、若い女だった」

「若い女」

昨日の女が頭に浮かぶ。

「その女はな、捕まえた途端自害してしまったんだが
どうもある集団の一人だったらしい。」

「集団・・・」

「ようするに、殺し屋だ」

 

 

<シェルの働く店 >

シェルの働く店は、20代〜30代の男女向けの商品を取り扱っている。
上品な服が多いので、店員もみなスーツを着用する。


シェルは昨日眠れなかったせいで一日ぼんやりしていた。
店にお客が来ても接客もそぞろに、ひたすらディスプレイの洋服をたたんでは
そらを眺めていた。

「シェル 今日やる気ないな」

「頭いたいんだ 昨日眠れなくて」

「今日一度も接客してないだろ。次にいらっしゃったお客様は
おまえがいけよな」

店長言われ、渋々うなずくとちょうど一人女性客が入ってきた。
仕方なく進みより、少し笑顔を作って客に話しかける。

「いらっしゃいませ 何かお探しですか?」

客は服をみる手を止め、シェルのほうを見た。

 

「!!」

お互い、一瞬固まった。

 

そこに立つ客は、昨夜のあの女だった。

 

 

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