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07

私はダリア。花の名前を持つ。
その花がどんな色でどんな姿なのか 私は知らない。
永遠に知りたくもない。

 

 

 

7.

<東水地区 警察局>

 

「眠り姫に似た少女が喫茶店に居たらしい」


梨刀が部下からの報せをきいたのは夕方の6時半頃だった。
彼はすぐに現場に向かうことにした。


  噂の是空使いに会えるかもしれない。しかも花蓮だ

梨刀の心は、期待に沸き立っていた。

 

 

 

<路地裏>

 

昼間から続いた曇天は、雨へと変わり
ぽつぽつと足下をぬらした。


ねこはカメリアに何度も呼びかけたが、
彼女は一言も発しなかった。ただ、声にならない声で
何かいい、ねこの頬を触れようとし、動きはそこで止まった。
あまりにも短い、再会。

「おねえちゃん 返事して! おねぇ・・・ちゃん・・・」

カメリアから流れ落ちる鮮血とねこの涙
降り注ぐ雨。

全てが混ざり、土へ染みこむ。

 

一部始終をただただ呆然と見ているシェル。

 

ダリアには事態の展開がよくわからなくなってきた。
なぜ、ローズは同じ花蓮のカメリアを撃つ?

「なんで・・・ カメリアを、なぜ殺すの?」

「花蓮は依頼ある人物しか殺さない。彼女はそのルールを破った。
自分の為に、その男を殺そうとした 」

あまりにも感情の無い声でそう返事が返ってきた。


ただ、それだけの理由で眉一つうごかさず
同じ組織の人間を殺せるローズが、ここにいる。

これが花蓮の人間なのだ。

 

 

 

遠くで警察のサイレンが聞こえ始めた。
銃声が通報されたのだろうか。

ローズは、ダリアを手招きして路地裏から歩き出した。

立ちすくむダリアに、ローズはきつく一喝する。

「ついてきなさい。
  あなたは花蓮の一員。既に花の名前を持っているのよ」

ダリアは一度だけ、ねこの方を振り返り、そのままローズと共に
雨の中消えてしまった。

そこにはカメリアの死体を抱くねこと、シェルだけが残された。

警察の車両は数台路地裏へ到着し、刑事が二人を保護し、事務的に死体も回収されただけだった。

雨は夜半まで続いた。

 

 

 

< 黒十字病院 >

『花蓮の死体が消えた』

翌日、刑事の梨刀からそう連絡がきた。
昨日カメリアの検死に立ち会った黒医師は、「はぁ?」とまぬけな声を漏らす。

「警察ってのは無能だな」

『医師殿の皮肉につきあっている暇はない。何か手がかりがあったら
教えてくれ 』

「全く無いね」

電話を切る。死体が消えた。いや、盗まれた。

「確かに死んでた、よな・・・」

死んでいた、はずだ。

 

 


診察室に戻ると、電気を消してたはずが、ついている。

スイッチに目をやると、あの女が立っていた。
たしか、ダリアという名だったっけ、と黒医師が言うと
ダリアは軽くうなずいた。

「あの針を、返してもらいたい」

「ああ、あの武器か。返そう、もともと君のだから」

診察台の脇の机をごそごそかき回す。メモ紙につつんでいた、その針を渡すと
ダリアはそれをうけとった。

「・・・ありがとう。これは大事な人にもらったものだから。」

そう言って、バッグの中から紙袋を黒医師に渡した。
中には数枚の紙幣が入っている。黒医師は少し考えてから、
それを机に閉まった。

「この前の診察代として受け取っておこう」

黒医師にそう言われ、用事を終えたダリアは診察室から出て行こうとした。
ふと、思い出したように足を止める。


「ねこは梅水花園にいる?」

「・・・いないだろうな。今日は週末だ」

ダリアは首をかしげる。その様子を見て、黒医師は少し笑ってしまった。
花蓮の暗殺者とはこうも正直なのだろうか?
思うことが手に取るようにわかる彼女は、もともとそういう性格なのかもしれない。

裏表のない、殺しも血もない世界の住人だったのかもしれない。


そんなことを、思ったりした。

 

 

「ねこは花園からぬけたんだ。シェルの家で暮らすことにした。
でも週に何日かは花園にいるはずだ。バイトしてる」

「シェルの家・・・」

シェルの家の住所を紙に書いて渡してやった。
ダリアはそれを受け取る。

「ダリア、これもやる」

机を引っかき回し、あるものを彼女に渡した。
俺はずいぶんお節介だよ、とニヤニヤしながら
黒医師は不思議な顔をして出て行く彼女を見送った。

 

 

 

<シェルのアパート>

「なんで花瓶が無いのー」

花束を抱えたまま家中散策したねこは、そう文句を言う。


「コップでいいだろ。なんの花だっけ、それ」

「椿の花。おねえちゃんの呼ばれてた名前。カメリアって、椿の花のことなんだ」

ねこはコップに白い椿の花を挿した。シェルはそれを無言で見つめる。

 ・・・渡しはしない。

先日、シェルは花園から仮契約で眠り姫を身請けした。
「あれだけ嫌がっていたのに、どうしてだ?」とトニーに不思議がられたが、
シェルは「決めたんだ」としか答えなかった。

「誰にも」

ぽつり、つぶやく。

 

 たとえ彼女の姉だろうと

 たとえ彼女が愛する誰かでも

 渡しはしない

 

自分の中にこんな感情が湧くとは思いもしなかった。

 

「何か言った?」

ねこが聞き返したが、「なんでもないよ」と笑いながら言い返した。


 

 

 

・・・コンコン

ドアがノックされる。
ダリアだった。ねこは喜んで彼女を招き入れる。

「花蓮があなた達を狙うことは無いみたい。ローズから聞いた。安心してね」

カメリアの死後、ダリアは正式に花蓮の一人と認められた。
そのことも、ねこに話している。

「ダリアは花蓮を続けるの?」

ねこに聞かれ、少し黙ったダリアは「言わないつもりだったけど」と付け加え
次のように話す。

「花蓮はね、10人暗殺を実行したらどんな願いでも叶えてくれるのよ。報酬として。
カメリアは・・・、あと一人だった。そして彼女の願いは、遠い街で二人分の国籍と
安全な暮らしを保証されることだった。」

「二人分・・・」

「・・・私も、願いがある。そのためには花蓮であり続ける」

ダリアは窓に置かれた花に気がついた。


 ああ、椿の花だ。白くて、綺麗な花。

 

 

 

「あと、さっき黒の医者からこれをもらったんだけど。
あなたに渡せって」

ダリアは黒医師から渡されたあるものを出した。
白い、カードだ。

シェルはそのカードに見覚えがあった。

金のいばら模様のカード。

梅水花園の眠り姫と出会う為の、一枚のカードだ。

 

 

ねこはカードをダリアに返した。

「ダリアこれをもって、梅水花園に来てね」

「??」

ダリアにはこのカードの意味がわからない。
シェルは笑いながら一つ、付け加えてみた。

「心配するな、一度目はタダなんだ」

「・・・?」

シェルとねこは、目を合わせて笑いあう。
ダリアも最初は怪訝な顔をしていたが、
二人を見てクスクス笑い出した。

 

 

その日、シェルはひさしぶりにねこの笑顔を見た気がした。

窓の側の白い花が風に揺れている。

空は晴天。

 

 

 

・・・今日はいい日だ。

  今日がいつまでも続けばいい。

 

シェルは、そんなことを願ったりしてみた。

 

 

 

 

CHAPTER 2 END →  NEXT CHAPTER 3 DAN VEE LOW PREVIEW?

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Chapter 2 あとがき

Chapter1の続編でした。いきなり3年後からスタートしましたが、
もともとChapter2をベースに作っていたのでこれから続く物語には大きな時間の経過はありません。
なんだか話の中で出てくる人が増えてきたので、
登場人物表でも作ろうかと思ってます。
名前を並べると、自分の名前のセンスがいけてないことに
気付くので微妙ですが・・・(黒医師は未だ名前がありません。花蓮のメンツは全て花の名前です。安直?)
ま、ヨシとするか。

2003.8.11 サクラミズ

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