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02

<黒十字病院>

花蓮のオフィスを出た後、すぐさまダリアは黒十字病院に向かった。
シェルも仕事が終わればこちらに向かうと言っていた。

病院の戸を開けると、ねこが元気そうに出迎えてくれた。


ダリアはその笑顔に、安心する。

 

 

 

「バンチ オブ ピッグス。ふぅーん。ブタブタブタ・・・」

「ねこ、やめなさい」

黒医師が笑いながらねこを諫める。
ねこはカルテの整理を手伝いながら、あまり興味の無さそうな顔をしていた。

「そのブタの王様の名前がなんだって?」

ダリアはメモ用紙をカバンから取りだした。

「名前は”ダン・ヴィ・ロウ”。詳細不明。
西大寺路に一年前にやってきて、あっというまに
路を牛耳るようになったらしいの」

黒医師は、「これも引き出しに」とねこにカルテを追加する。
それから 少し考え込んで、 缶ビールを開けた。

「そのダン・・・なんとかは、西大寺路にいるんだな。
ダリア、会いに行ってみれば」

「エェ?」

「ねこがおまえらのせいで狙われてる、って言やぁいい。
なんとかしてくれるんじゃないか」

なんとかなるわけないでしょう、とダリアが言いかけた時に
シェルが仕事から帰ってきた。黒医師は、シェルに缶ビールを渡しながら、さらに付け足した。

「コイツも連れていけばいい。見た目より腕っぷしは立つみたいだし」

シェルとダリアの視線が一瞬だけ交わり、お互いすぐに目を反らした。
二人とも、思い切り「嫌だ」という表情が顔に出ている。
沈黙が部屋に広がった。

 なかなかだな、この二人。

黒医師はシェルとダリア、双方を見つつため息をついた。

「ねぇ、ひとつ疑問なんだけどね」

気まずい空気の中、ねこがダリアに話しかけた。

「”ダン・ヴィ・ロウ”って、どこから名字でどこから名前なの?」

黒医師は思わず吹き出してしまう。


「やっぱ本人に聞くべきだな」

シェルと、ダリアにもう一度言う。

「二人で、ダン・ヴィ・ロウに・・・豚の王様に会ってこい」

 

 

 

 

<西大寺路>

 

次の日、シェルとダリアは梅水地区で待ち合わせ、西大寺路へと
向かうことにした。

お互い話すことも無いので無言のまま歩きつづけると
思っていたよりも早く目的の場所へついた。

”西大寺路”と書かれた古い木の看板が、掲げられている。
そこは一本の道で成っており、道沿いには人が住んでいるのかわからないくらい
薄汚い建物が連なっていた。

「ここをまっすぐ行けば中央交差点があるはず」

ダリアが口を開いた。

「その交差点の奥が、東路というらしい。両方100Mくらいみたいだけど」

シェルは道の奥に数人の人影を見つけた。
その人影も、入り口に立っているこちらを気付いているようだった。

「・・・行こうか」

二人は西大寺路の中へ、歩きだした。

 

 

 

歩くにつれ、向こう側の人影もはっきり見えるようになってきた。
体格のいい男が5人。ニヤニヤしながら二人に近づいてくる。

「何の用だ? お嬢さん達」

すんなり通してくれないだろう、そう思いダリアの方をチラリと見たが、
ダリアは腕を組んだまま立ち止まった。


「シェル、私は一切手をださないわ」

「・・・は」

お願いね、という表情でそこから微動だにしないダリアに変わって
シェルがこの集団の相手をすることになってしまった。

5人のうち半分くらいはダリアがなんとかしてくれるだろうと思っていたシェルにとって
衝撃の一言だった。戸惑う暇もなく男達が殴りかかってきたので
シェルは数カ所殴られつつも、なんとか5人共苦戦しつつ倒していく。

その間、ダリアはシェルの動きを見逃さなかった。

  シェルは弱そうに見えて強いのよね・・・

 

「ダン・ヴィ・ロウはどこにいるか教えろ」

シェルに胸ぐらを掴まれもはや戦意が無いのだろうか。
男は自分から喋りだした。
「ダンの場所なら教える・・・だから許してくれっ」

そういって、彼は道の奥をさし、「あの端にあるのがバンチのバーだよ」と言って
逃げ出していった。

指された方向には、豚の絵が描かれた看板が提げられていた。

”Bunch Of Pigs”と。

 

 

 

 

< 西大寺路 Bar ”Bunch of Pigs”>

 

 

この店は夜が朝で、朝は朝、昼は夜だ。

 

 

夜が明けても店は閉まらない。
朝日を浴びた店内には、だらしなく酔っぱらって寝込む客が
数人、ソファーやカウンターに突っ伏している。


「姉さん お水 お水」

坊主頭の青年は、かいがいしく酔っぱらいの世話を焼く。
朝ご飯の準備も着々と整え、汚い店内にもようやく
朝の匂いが立ちこめてきた。

「まったく世話女房かよ。よくやるぜ」

カウンターで1人、その様子を醒めた目で見る短髪の少年は呆れながらそうつぶやいた。
何気なく、 店の窓から外を見る。

 

   ん?あそこにいるひとだかり・・・喧嘩か?

 

「キジ。外がさわがしい」

店の外から仲間が彼を呼んでいた。
短髪の少年は、こくりをうなずく。

「そっちに降りる。ダンには知らせるな」

キジと呼ばれた少年はニット帽をかぶり店の外へでた。
薄汚れた路地には、数人同じ年代の少年達が隅に座り込んでいる。
いつもと同じ風景だが、一つ違うことがあった。
彼らは何かを見ている。


西大寺路の入り口方面で数人の人だかりができていた。

 あれか。朝から何やってんだ。

キジが目をこらすと、そこには真っ黒なスーツを着た男と、黒髪の女がいた。
どちらもこの西大寺路では見たことのない人間で、
特に飛び抜けて美しいその女に 一瞬目を奪われた。

「あの男、強いぞ。もう5人倒してる」

キジの後ろに立つ少年が、彼に耳打ちする。
その男と女がゆっくり近づいてくるのを、キジは右手を伸ばして制した。

 

「あんた達、何の用?」

 

女は歩みを止めず、キジの前まで歩いてきた。

「私たちはダン・ヴィ・ロウに逢いたいの」

「・・・知らないな」

キジは脅すつもりで、女の肩に掴みかかってみた。
しかし 女は少しも驚かず、ビクとも動かない。

掴んだ肩には震えすら感じなかった。

 

  この女・・・

 

そう思った瞬間、不意にキジは、その手を払い除けられる。
女の後ろに立っていた男が、いつのまにかキジの腕をねじ上げていた。

 

「・・・離せッ」

周りの少年達も身構える。男は無表情のまま、さっきの女と同じ事を言った。

「ダン・ヴィ・ロウに会わせてくれ」

「・・・・・」

キジが返答に窮している時に、店の奥から声がした。

「キジィー 入ってもらえ。」

ダンの声だ。誰かがダンを呼んだらしい。

  バカ野郎。だからダンに報せるなと言ったのに!

ねじ上げられた力が弱まると同時に、
その手をふりほどいた。

その男から数歩下がって、彼らに渋々言う。

「・・・入れ。ここがBunch Of Pigsだ」

周りの少年達の緊張したまなざしを受けながら
キジは店内へと彼らを連れて行った。

 

 

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