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04

<黒十字病院>

西大寺路を戻ると、もう夕方近くになっていた。
行きと同様、シェルとダリアは無言で歩き続け、病院に戻ってきた。

「おかえりー!!」

病院のドアを開けると威勢よくねこが出迎えてくれる。

「おう。無事か。どうだった」

奥で、黒医師の声がする。シェルはねこの顔を見て、ホッとした。


 

「先生にね、注射のやり方を習ったのよ」

そう言ってダリアの腕をとり注射の真似をするねこと、笑いながら話を聞いているダリアをみて、
シェルはぼんやり考えていた。

 

  ・・・ねこの顔を見てホッとするのは、俺だけじゃない。

     きっとこの女もそうだ。俺とダリアは、ねこがいなきゃ眠れすらしない。

     ねこと再会して安堵のため息をもらす俺。

 

     そんな小さな吐息すら、ねこは見逃さない。

 

「シェル 疲れた?」

黙ったままの立ちつくすシェルを、心配そうにねこが覗き込む。

「・・・いや、大丈夫。」

 

 

    絶対、無くしちゃダメだ。

 

その時、インターホンの音が鳴った。梅水花園の車がねこを迎えにきたらしい。

「じゃあ、行ってくるね」

ライに連れられ、ねこは花園へ仕事に行ってしまった。

 

車の去る音を聞いて、黒医師はTVをつけた。


「さて、おまえ達メシでも食うか」

時計は7時を指している。そろそろ夕飯の時間だった。
ダリアはすでにジャケットを羽織り、帰り支度をしている。

「・・・私は帰る。」

おい、と黒医師の呼びかけも答えず、ダリアはドアから出て行ってしまった。

シェルと黒医師は顔を見合わせる。

「あのお嬢さんはご機嫌斜めか?」

黒医師の問いに、シェルは首を振った。

「俺は知らないよ。先生、メシ何?」

「おまえと二人ならこれでいい」

目の前に出されたインスタントフードに、げんなりした表情を見せるシェル。「湯を沸かせ」と命令されぶつぶつ文句を言っているシェルを見てると、
今日の組み合わせは無理があったか、と黒医師は思い直していた。

シェルとダリアが組めばだいたいのことからはねこは守れるだろう。それは
シェルにとってもダリアにとっても、「ねこを守る」ためには最前の方法だろう。

  だが、二人がこうも合わなくては意味はないか・・・。

 

「シェル、俺はそっちのシーフード味な」

「イヤだ、これは俺のだ」

 

男二人の晩餐は、少々わびしいものになった。

 

<翌日 梅水花園フロント>

朝方、ダリアは梅水花園にやってきた。
ねこを1人で帰らすのが心配で迎えにきたのだ。

「トニー、またね!」

ねこはトニーに手を振り、ダリアと並んで歩く。
まだ朝なので梅水地区に人気は無かった。

二人の靴音が石畳に響く。

 

「ねぇ、ダリア」

 

ふいに、ねこが言う。

「どうしてダリアは花蓮に入ったの?」

唐突なねこの問いに、ダリアは顔をあげた。

「前、叶えたい願いがあるって言ってたなぁっておもって。
私のお姉ちゃんもそうだったでしょう、
手に入れたい物と引き替えに仕事をしてた。
ダリアは何が欲しいんだろう、と気になって。 」

ダリアはしばし沈黙したが、小さな声で話し出した。

「私の願いは、・・・ カメリアと似てるかもしれない。人を探してるの。
私だけでは見つけられなくて、花蓮の力を借りようと思った」

「ひとを?」

「ねこがカメリアを探していたように、私は弟を捜している。
生きているか、死んでいるかもわからないけど」

「弟の名前は?」

「・・・アツシというの」

 

ダリアがそれ以上話す様子が無かったので、ねこは「そっか」とうなずいた。

 


  暗殺と引き替えに願うのは弟を見つけ出すこと。


花蓮以外の人間に話すつもりも無かったことだが、ねこにたずねられると不思議と抵抗なく答えてしまう。

 

  やっぱり、私にとってこの女の子は特別なんだ。
  初めて会った時に、殺せなかったように。

 

  そして、

 

  アツシ。

 

  久しぶりに、弟の名前を口にした。

  生きていたら、そう、ねこと同じくらいの年で。・・・あの西大寺路にいたキジという少年くらいの年の。

  わたしの、弟・・・。

 

  今はまだ何処にいるのかも わからない。

 


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