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05

<梅水花園 フロント PM5:00>

 

 

「トニーさん、表に怪しい奴らがいます。」

警備の男がフロントにやってきて、そっと耳打ちした。

今夜のお客の準備に忙しいトニーは男の言葉を聞き、ペンを動かす手をとめた。


「怪しい?どんな風に?」

「1人は少年、もう1人は20代半ばといったところです。『眠り姫の客だ 黒医師に紹介された』と
言っていますが、茨のカードもありません。」

トニーが黙ってうなずく。

「ロビーに連れてきてくれ」

警備の男は、「了解」といいフロントから外へと出て行った。

 

<梅水花園 正門前>

「あ〜あァ、キジ君の名案って言うからさぁ、
僕マジメについてきたんだけどなぁ。お金を使わず眠り姫に会う方法ってこれかよ」

「うるさい ダン。だから、黒医師の患者のフリをしとけばここはフリーパスなんだって」


「だったらなんで僕らは門で閉め出されなくちゃならないのサ」

数分前、正門の男に呼び止められた二人はキジの策略通り「黒医師の患者」と称してみた。
無論、フロントに通されることもなく追い払われ、ただ門の外から梅水花園の館をのぞいている状態に
なっている。

「もう帰ろうぜ、キジィ」

ダンがぶつぶつ騒ぎ始め、辺りの目も気になり始めてきた。

一度ダンを連れて引こうか。そう迷っていた時、急に背中を荒っぽく掴まれた。

「一緒にきてもらおうか」

先ほどの警備の男は二人の首とつかみズルズルとロビーへ連れて行った。

どうする?とキジはダンに目配せしたが、ニヤニヤしながらなすがままとなっている
ダンを見て、 自分もおとなしくすることにした。

  ・・・こいつがこんな顔をしているときは、大概悪知恵を思いついているときだ

 

 それならばダンに任せよう。

 

 

 

二人はフロントに連れられ、10人ほど警備の男たちが周りを固めている。

キジは梅水花園の内部の豪華さに目をみはる。外から眺めたことはあっても、内部を見たのは初めてだ。

フロントを見回すと、奥に構える白いタキシードの男に気がついた。

「あんたがフロントのトニー・クリムズ?」

白いタキシードの男は、ニッコリ微笑みながらこう答えた。

「そうでございます。眠り姫をご所望と伺いましたが、どちら様からのご紹介でしょうか。」

「ああ、あの黒い医者さ。紹介されたよ」

「では、例のものをお渡しください。」

トニーのその言葉に、キジは返事に窮した。
無論、トニーの言わんとしている物の存在を知らないからだ。

わざと冗長な間をとった後、トニーは続けた。

「お伽話に出てくる眠り姫は茨で覆われた森でお休みでございました。
その眠り姫を一目見ようと数多の人間が茨の森に挑み、討ち果てております。姫にお会いになられたのは
茨の森を越えられた、勇気ある者達でございます。


森をぬけた証拠の無き者に、姫と会う資格はございません。
私たち梅水花園においても、それはまた同じことでございます。

誠に無礼と存じますが、お引き取りくださいませ。」

唖然とするキジの肩をつかまえて、「ハハハ」とダンは大笑いした。

 

「ハァッハハハ・・・ようトニーのおっさん、俺らは学が無いからね、そんな比喩表現はサッパリだよ。
でもまぁ、 ようするにお呼びでナイってことだろ。帰ろうぜ キジ」

ダンは渋々顔のキジを引き連れて、梅水花園を後にした。

二人が花園から去る姿をみて、ライは笑いがこみ上げてきた。

   遠回しに・・・「出て行け」と言ったトニーさんて・・・いつもニコニコおだやかな分、ある意味ポーカーフェースかも・・・

ライはフロントの隅から外の様子をみていると花園の門に何人か
人がいるのが見えた。 さっき出て行った二人組はもちろんだが
坂の下から上ってくる二人の人物がライの目に入った。

「ねこじゃないか・・・」

坂の下から花束を持ったねこと、それにつきそうシェルが見える。


「トニーさん、表にねこが来てる!!」

「なんだと・・・あのチンピラ共と、鉢合わせしてしまうぞ」

トニーは心配そうに、フロントの外の様子をのぞきに行った。

 

 

 

<梅水花園 外門>

 

ねこが花園に用があるというので、シェルは仕事後付き添いがてら
花園までを散歩してた。

「ねぇ シェル。ダリアね、弟がいるんだって。」

「弟?」

「この街で探してるんだって。知らない?」

ふうん 俺は知らないな、そう答えて花園の方に目をやる。なにやら、門に
人の気配がするからだ。

シェルは、ダリアの弟話には全く興味を持たず
花園の外門をのぞき見た。

 

  ・・・なんでいるんだ・・・??

 

「ねこ、こっちに来て」

花園の門に、見覚えのある人影があるのに気付いた。
シェルはねこの手を取り、その人物を確認する。

「誰?」

肩越しにのぞきこむねこ。声をおとしてそっと伝える。

「あのサングラス野郎がダン・ヴィ・ロウ。なんでここにいるんだ?」

   どうして梅水花園の居場所まで突き止められている?

西大寺路に出向いた時に身分を明かすようなものは何一つ見せなかったというのに。
シェルが足を止めるのと反対に、ねこはシェルの手をはなし歩きだした。

「彼がダンなの?・・・ あたし話してくる!!」

おい、ねこ、と呼び止める間もなく、ねこは駆けだした。
シェルが追いついた頃には既にダンも、近づくねこに気がついたようだった。

「・・・君が眠りの森のお姫さま?僕は茨の道をぬけられたのかな?」

「わたしの名前はねこ。あなたが西大寺路のダンだね?」

 

お互い沈黙し、ダンはねこの全身を舐め尽くすかのように凝視した。
それと反対に、ねこはダンの瞳をのぞこうとして、彼のサングラスに阻まれる。

 

「ボスは目を見せないの・・・?」

「そうだヨ。ねこちゃん、けれど、やっぱり僕は君に用は無いみたいだ。」

そう言って、ダンは立ち去ろうとした。キジもため息混じりに彼の後ろをついていく。

「待って」

ねこがダンを引き留める。しかし、彼は立ち止まらなかった。

「待って。教えて 西大寺路は本当は・・・」

 

「本当は何も争いなんかしてないんじゃないの?」

その言葉に、彼らの足が止まった。

 

  ”何も争っていない?”

 

ねこが何を言っているのかシェルはわからなかった。ただ、ダンがジワジワとねこに近づいていったので
急いで止めに走った。

ダンはねこの言葉に意識が集中していたせいか、周りの異変に気がつくのが、少し遅かった。

シェルが駆けだし、ダンがねこと対峙したころ。

 

ちょうどその時だった。ダンが周りの様子がおかしいと気付く。妙に、静かすぎる。
路地奥を見れば、暗闇に光るたくさんの銃口が見えた。

 

 

「キジ!!後ろ!!」

 

 

ダンが叫ぶよりも早く、急襲がやってきた。銃声が何度も鳴り響き
シェルは硝煙の中ねこを探した。

「ねこ!!俺はここだ 俺の手をとれ!」

キジはいつのまにか背後にいた人物に、細い紐で首を締め付けられている。
気配に全く気付かなかった。

「離せ!おまえ、ダレだ?北路のヤツかっ?」

そう問うが最後、キジの頭には鈍い衝撃が走りそのまま意識は無くなった。


「キジ!!」

銃に蜂の巣にされていたダンは、3M程近くにキジが倒れ込んだが助けに近寄れない。


  ちくしょう。 いつのまに こんなに隠れてたんだよ・・!!

ダンは苛々しながら発砲している一人の男に飛びかかっていった。手早くみぞおちに手刀をくらわし、
持っていた銃を奪う。それを止めようと飛びかかってきたもう一人の男の首をつかみ、迷いなく首の骨を折った。

余った拳銃をシェルに渡し、とにかくこの場をおさめた。

数人逃げられたが、襲ってきた奴らの半分以上は
仕留められただろう。この中に奴らがいればいいが。
そう思い、キジの傍によろうとしたとき。

 

「キジ?」

 

さっきまで倒れていた所にキジはいなかった。辺りを見回しても
死体だらけでキジなどどこにもいない。

 

「キジ?」

彼の返事は無く、代わりにシェルがこう言った。

 

「ねこも、あんたのとこの少年も、いなくなった。」

 

 

 

西大寺路を牛耳る男の目の前で部下と、眠り姫が連れ去られた。

 

 

 

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