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06

 

 

 

  カーテンコールは必要カナ?

 

  いいや、豚に賛辞をとばす奴はいない

 

 

 

 

 

 

 

6

 

<黒十字病院>

夕方、ダリアが病院についた頃には、事態は既に起こっていた。
いつもは出迎えてくれるねこがいない。
シェルも、いなかった。

「先生、なにかあったの?」

診察室から出てきた黒医師が昼間起こった事態を告げる。
ダリアは固い表情で黒医師の話を聞いた。

「シェルはどこに行ったの?」

「シェルもいない。トニーの話だと、ねこが連れ去られたあと
犯人達の逃げた方向へ走っていったと。
それ以来、見ていない・・・、」

そこまで言いかけて、黒医師はダリアの顔にギョッとした。
あまりにも厳しい、冷徹な表情をしている。

「おい ダリア・・・」

「西大寺路に行くわ」

 

 

足音なく病院を出て行ったダリアを見て、黒医師はため息をついた。

「あの表情が花蓮の女か・・・」

少々、ゾクリときた。黒医師が目にした普段の彼女からは思いつかない、氷のような表情だった。

 

 

 

 

 

 

<廃ビル>

 

「・・・」

 

   声が聞こえる。

 

「・・・丈夫? 」

 

薄ぼんやりとした意識の中、女の子の声がする。キジはぼやけた視界に、自分を覗き込む人間の顔に気がついた。

あわてて起きあがろうとすると、のどに激痛がはしる。激しく咳き込むと、その人はそっと背中を撫でてくれた。

 

 そうか、さっき襲われた。首を絞められて・・・それから・・・

 

「あなた首にアザができてる。首だいじょうぶ?」

顔をあげると、その声の主は眠り姫だった。辺りを見回すと、汚いセメント張りの部屋の一室だ。
眠り姫は心配そうに自分を見ていた。

「君も、連れられたのか?」

キジの問いに、彼女はこくりとうなずいた。

「私たちを餌に、ダン・ヴィ・ロウを呼び寄せると言っていたわ」

 

 

 

 

 

< 西大寺路 Bar ”Bunch of Pigs”>

 

  キジを見つけなければ。
  彼無しでこの舞台に幕は閉じられない。

 

店内はキジの事件でざわめいていた。
ダンは他の少年達に経緯を話ながら、皆に指示を出していた。

「おい、あの女だ」

ダンが入り口をふりむくと、ダリアが店の中にはいってきた。
どうして彼女が西大寺路に来たか、 ダンにはわかっていた。
だが今は ダリアの相手をしている暇は無かった。

店のカウンターから視線だけダリアにむけ、一言だけ言った。

「出て行きナヨ 俺は今忙しい」

ダンの言葉を聞き、入り口付近に位置していた仲間の少年が彼女に近づく。
店から出そうとしたのだろう。 ただその後が違った。

 

ダリアが少年の手を払いのけたあと、グニャリ、と膝を曲げ人形のように少年は倒れ込んだ。

「!?」

ダンも、周りの仲間も一瞬目を疑った。
少年を飛び越え、ダリアはカウンターに走り込んだ。

迷いもせず、ダンの首に掴みかかる。
カウンターに登りダンの上半身ごと壁にたたきつけた。

右手でダンを押さえ、左手で髪の毛にしのばせていた針をとる。
ダンの額1センチ程の感覚で、針の先端を止めた。

ダンに抵抗する間は全く無かった。

 


傍にいた仲間がダリアを取り押さえようとしたが、
手を触れられた途端カクンと崩れ落ちる。

 

  なんだ?この女は一体何をした?

 

一同がそう思って動けず、静まりかえる店内でダリアの声が響く。

「ねこを救うにはあんたが鍵なの。知ってるんでしょ、何か」

ダンは針の先端に嫌ほど意識を集中した。
少しでも抵抗すれば刺される。押し殺した声で彼女に問うた。

「君は何者だ?」

「・・・私はダリア。花蓮の暗殺者の1人。
タダで協力しろとは言わないわ。あんたの望む誰かを殺す。確実に」

「花蓮 ・・・・?」

「東路のボスでも、始末する。だから、お願い。ねこを助けるのに協力して」

その瞬間、ダンは緊張していた身体を緩め、大きく笑い始めた。

「ハハハハハハ!!! そりゃぁいい! ダリア、ダリアか。花蓮だと・・・」

突拍子もない笑い声にダリアは顔をしかめたが、ダンは笑いを止めながらこう言った。

「OK,ダリア。おねぇさんの言うことを聞こう。俺だってキジを助けたいからね。
ただし、」

「ただし?」

ダリアが聞き返すと、ダンは更にニヤニヤ笑う。

「俺は別に人を殺して欲しくはない。その代わりに 一つ、
俺の言うことをなんでも聞いてくれる?」

それが条件、 そういってダンはダリアの肩に手を回した。

その行動に驚いたダリアは身をひいたが、さらにダンに引き寄せられる。
ほぼ抱きすくめられる体勢になり、腕から逃れようともがいたが彼はびくともしなかった。

「俺の言うことを聞いてくれるなら、ネコちゃんを助けるのを手伝ってもよいヨ」

「何よ・・・何をすれば」

ボソボソと耳元で囁かれた時、ダリアは耳を疑った。
「本気?」と聞くと「勿論だ」とダンは返事をする。

「・・・・わかった。」

「契約は成立だ。じゃァ行くか」

ダンの手がダリアを離した。
彼は仲間に目配せし、ゆっくりと店の出口へ歩き出す。

店の出口に倒れたままの少年を覗き込み、「コイツとそいつ、大丈夫なの?」とダリアに聞く。

「大丈夫よ。3時間くらいで目を覚ますわ」

それならOK,とつぶやいて、店から出て行った。ダリアもその後を追っていく。
店内の誰も、後を追ってこなかった。

 

 

 

「ダン・ヴィ・ロウ、どこへ行くの?」

「東路にだよ。」

意外な答えに驚くダリアをよそに、ダンは店の裏からバイクを引っ張り出してきた。

「乗りナ」

「東路に何をしに・・・」

「あいつらにもこの事態を報せるのサ」

ダリアが後ろに乗った途端、急発進し進路を東へ取る。

 

「実はぁ、キジは東路のボスなんだ」

「東と西は争っていたんじゃ・・・」

「争っていたようにみせてたんだ。裏切り者のシッポを捕まえるためにな。」

 

それだけ言うと、ダンは猛スピードで進み出す。
ダリアも今は黙ってついていくことにした。

 

 

  俺とキジではじめたこの芝居は

  そろそろ終幕なのサ

  そうだろう?

 

 

 

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