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08

<廃ビル>

扉の向こうで言い争う声が止んだ。近づく足音を聞き、ねことキジは部屋の奥へ後ずさる。
荒っぽく扉は開けられ、3人の少年と女が部屋に入ってきた。
ねこはその女の顔に見覚えが全く無かった。

女の容貌は、ただならぬ雰囲気を醸し出している。肩で切りそろえられた髪に切れ長の目。
その目元には赤いアイシャドウを入れているせいか、 素顔が想像つかない。

”あの少女は花蓮の・・・”

たしかにそう言った。この女も花蓮の存在を知っている。

   私がカメリアの妹だと知っている?

女はねこの顔を見て、薄気味悪い笑みを浮かべた。

「もうその男は必要ない。眠り姫だけ連れて行く」

「ソニアはそうすればいい。俺達はこいつを利用してダン・ヴィ・ロウを倒す。」

「ふふ。そうするか。勝手にしろ」

ソニアと呼ばれた女は、ねこの手をぐいと掴むと、部屋から出て行こうとした。

「待て、眠り姫をどうする気だ!」

キジが止めようとしたが、残り三人の少年がキジを羽交い締めにした。

「坊やは自分の命の心配をするんだね。」

 

部屋にはキジと3人の少年だけが取り残された。

ソニアとねこの足音が遠ざかったのを確認し、キジは自分を抑え込んでいる少年を
ぎろりと睨む。

その眼光の鋭さに、身を引きかけた少年の隙をキジは見逃さなかった。

 

 

 

 

<ダンの車内>

「あ?」

急にダンが素っ頓狂な声をあげる。都市の北奥方面に向かっているところだった。

運転席にはダン、助手席にはシェル。
ほか数台の車に西大寺路の少年が乗り込んでいる。

「なんだ、どうした」

シェルが聞くと、ダンはカーナビのモニタを指さした。

「キジが分裂した」

指さす部分には街の地図上に光る点滅が二つ。一つはすぐ近くに、もう一つはその場からゆっくり移動しているようだ。

「これ何だ、もしかして衛星から位置を取得するやつか?」

「そそ。民間会社がやってるサービスの通信網にタダ乗りして使ってる。
互いの位置がわかるから、 西大寺路の奴らみんなこれを持たせてる。
この光っているのがキジだ。なのに、なんでふたつに分かれるのカナ?」

点滅は確かに動き続けている。

「ダン、これは都市高速じゃないか?」

後部座席の少年がモニタをみながらそう言った。

「高速道路か。
どうやらどっちかがキジで、もう一人はネコちゃんだな」

「ねこが?」

「キジがスペアを渡したんだろう」

ダンは後方の車に二手に分かれる合図を送り、高速道路への道へ向かった。


  どちらかに、ねこがいる・・・。

シェルは祈るように、モニタを見続けた。

  

 

<東水地区>

ダリアが遅れて西大寺路についたころ、ダンの一向は既に出払ったあとだった。
残っていた少年から都市高速へ向かっていることを聞いた。

「車を降りて。行くわよ」

ローズは西大寺路から花蓮のオフィスのある東水地区へ入った途端、突如車と停めた。

「車じゃなきゃダンにおいつけないわ。ローズ?」

ローズはダリアの呼び止めもきかずそばの倉庫の中へ入っていく。

「待って」

追って倉庫へ入ると、そこには意外なものがあった。

「乗り換えるわよ」

ローズはそれに乗り込み、シートベルトを締めながらそう言った。

 

 

 

<都市高速>

 

この高速道路は交通量が多い。東水地区と、隣の都市を結ぶ主要な
道路なので夕方でも大型車が行き交っている。
ダンは器用に周りの車を追い抜き、モニタの点滅が徐々に近づいていく。

「いた!!あの黒い車だ!!」

後部座席で双眼鏡を構えていた少年がその車を見つける。

シェルは指さされた車を、目をこらして確認した。ねこはいるのだろうか。
前行く乗用車がチラチラと視界を遮り捉えられない。

「邪魔だ どけっ」

助手席の窓を降ろし、そこから身をのりだして黒い車を探す。
その車の助手席に、確かにねこがいるのを確認した。

 

    ・・・いた!!
    ねこがいる

 

「ダン!ねこが乗っている。あとは女一人だ」

「女ァ?そいつが裏方か?」

「知らん。武器も見えない。あの車のケツにつけてくれ」

そう言い残すと、シェルは座席を乗り出し窓から車の天井へ足をかける。
時速100km近くで走る車の上に、身一つで登っていった。

「あんた何する気だよ」

後部座席の少年が窓から首だけ出して
はらはらしながらシェルを見ている。

移動速度が上がっているせいだろう。車上の風の強さは並々ならず車の上に立っていることはできなかった。
シェルは体重を腰におとしてしがみついた。前髪が異様にはためいている。

「あっちの車に飛び移るんだ」

唖然とする少年の後ろから「ガンバッテ」とダンの声がした。

シェルの体勢が落ち着いてからダンはぐんぐんスピードを上げ始めた。シェルは身体を低く構え、前方の車が
近づくタイミングを待った。

 

 

 

 

ソニアは運転席のバックミラーでその様子をとらえ、銃をかまえた。

「眠り姫、運転しな」

「え?」

ねこにハンドルをまかすと、ソニアは車の天井の開閉窓を開ける。ねこは手錠でつながれた両手で
必死にハンドルを切った。チラとバックミラーを見ると、後ろの車にシェルの姿を捉える。

「シェル!!」

 

 

「今だ 飛び移れ!!」

ダンがスピードをさらに上げた。ねこの乗る車のトランクに思い切り車体を押し出し
一瞬できた架け橋をシェルは素早く渡った。
ねこは背後の急な激突に目を回しながらも運転を続けた。

激突のショックでかいつのまにか車の上にいたソニアの姿は無かった。道路に振り落とされたのだろうか。
シェルは急いで車内をのぞきこんだ。

「ねこ、無事か?」

「シェル!!私は平気。怪我も無いよ」

ねこが笑っていたのでホッとして、一安心ついたシェルは
車の天井から車内に入ろうとした。

「ねこ、運転変わるぞ。」

「そうだね、私免許持っていな・・・」

首筋に、なんとも嫌な感触がした。

 

 

「ソニア!!」

ねこが悲痛な声を上げる。
後ろを振り向くと、車から落ちた女が傍に立っていて、
片手にナイフを持っている。その刃先はシェルの首にぴたりと添えられていた。

 

「おまえも邪魔するなら殺す」

「!!」

 

 

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