back next

09

 

<ダンの車内>

「オイオイ、あいつ危なそうだぞ」

ナイフを突きつけられたシェルを見て、ダンは「しょうがないなー」とため息をつく。

運転席の窓を開け、持っていた短銃で車上の女を狙った。
その時キジから連絡が入った。

『ダン、俺は無事だ。
今おまえが追ってる女が黒幕だよ。生かして捕まえろ』

「了解ィ。」

ためらうこと無く、女の肩を狙った。弾丸は肩をかすめ、持っていたナイフを手から落とした。
その隙にシェルがソニアにつかみかかったが、反対に足蹴りをくらい
シェルの体はバランスを失った。車のトランクからずり落ちそうになり、必死でつかまる
状態となってしまった。

「・・・だめじゃん あいつ・・・」

車内は沈黙した。

 

 

 

<車上>

 

「邪魔な奴だ、消えろ」

シェルは車から蹴落とされかけ、必死にトランクにつかまっている。
そのつかんだ手をソニアは何度もブーツで踏みつけた。

「手を離して後ろの車にひき殺されるたいか?
それとも、私がおまえの頭を撃ち抜いてやろうか。選べ、今すぐ」

 ちくしょう、この野郎 どうすれば・・・

「手を離さないのか?」

薄ら笑いを浮かべ銃口をシェルに向けたソニア。
シェルは、その頭上に黒い影を見た。
ヘリの回転音が耳をつく。いつのまにか一台のヘリが真上を飛んでいた。


 

「ダリア・・・?」


その黒い影はヘリから飛び降りるダリアだった。
道路上を飛ぶヘリから、ダリアがスローモーションで降ってくる。

叩きつけられるように車の天井に落ち、持っていたナイフを突き刺し滑り落ちるのを食い止めた。
その激しい衝撃が車を揺らし、シェルは振り落とされそうになるのを必死で堪える。

「な・・・ 誰だ!」

「ねこを返して」

ソニアはダリアの降りてきた頭上をチラリと見た。
操縦席のローズを見た途端、 クックックと笑い出す。

「ははは おまえだね  新しい花ってやつは・・・」

  花?花蓮のこと?

ダリアはその女の顔に見覚えがあることに気がついた。

  どこかで見たことがある。私はどこでこの人を見た?

「あのヘリにはローズがいるんだろ。あの女からアタシのことを
聞かされてるのか?」

  ローズから?一体なんの・・・

その時ローズから渡された写真を思い出した。この人を殺すのか、と聞いた時
元花蓮だと聞かされた。あの写真の女性。

「・・・ソニア?」

その名を呼ばれ、軽くソニアはうなずく。ローズの言っていたセリフを
思い出した。

 『あなたが花蓮に入るちょっと前に、この女も花蓮候補にあがったのよ。 
 実力に申し分は無かったけど、少々問題があって 除外されたわけ。』

そのせいで、花蓮を恨んでいると。確かそう言っていた。

「こんなとこで新入りの花に会えるとは思わなかったよ 
おまえの願いは何だ?何を願って花蓮に入った?」

ソニアはダリアに興味津々な様子だ。シェルはソニアに気付かれないように
落ちかけていた体勢を立て直そうとした。
車は猛スピードで走り続けている。後ろのダンの車を見ると、ダンが何か手招きしている。

  なんだ?

手を上に持ち上げるような動作をしていた。手を振り上げパンチの真似ごとをしている。
さっぱりわからなかった。

  あの野郎 こんな時に何を?

シェルが首をふると、後部座席の少年が窓から手を出し
車の天井をバンバンと叩いている。するとダンの車がスピードを上げ始めた。
ダンの意図がわかり急いでトランクによじ登った。上に立っているダリアにも呼びかける。

「ダリア!何かにつかまれ!!」

 

2度目の衝突のショックで車上にいる3人はまたバランスを失い落ちそうになった。
シェルはすぐにソニアが落とした銃を拾う。
彼女が体勢を整えるまえに狙いをつけた途端、 ソニアは脇を走っていたトラックの荷台へと飛び移った。
トラックはソニアを乗せてから、車間距離を広くあけだした。仲間のようだ。

「かして」

ダリアはシェルの銃を奪い、ソニアに狙いをつけた。
ソニアもすぐにダリアに狙いを構える。

どちらかが撃てばどちらかも撃つ。そんな状況だった。
車越しに、口をひらいたのはソニアだ。

「100%賭けてもいい。花蓮はおまえの望むものをけして与えちゃくれない。
殺させて、殺させて、最後は殺されるのが花蓮の花だ。
椿の女が死んだようにな!」

「椿の女ってカメリアのこと・・・?」

「私と来い。おまえの欲しいものをあげる」


その言葉に、ダリアの動きが固まった。

 

 

  消えた弟を、こんな女が見つけ出してくれるのなら。

 

  誰が人殺しの仕事を選んだだろうか。

 

 

構えた腕を、力無く落とす。

「消えて。あなたの顔は二度と見たくない。」

侮蔑にあふれた表情で、ダリアはソニアを睨んだ。

「今はそう言っていても、いつか必ずおまえは花蓮を裏切るよ。望むものを与えてくれない花蓮をな!」

車の荷台から高笑いしながらソニアの姿は小さくなっていった。


きっと、もう撃っても届かない。

 

 

 

 

「ダリアーぁ!!約束を忘れるなよゥ!!」

ダンは大声で叫びながら車を進めると、別の方面へ切り替える道へと移動していった。
ダリアとシェルは車の天井に座ったまま、ダンの車を見送る。

「約束って?」

「・・・ちょっとした仕事。ねこを助ける手伝いの代わりに契約したの」

ダリアは夕暮れ空を見上げた。そこに、まだローズの操縦しているヘリが見えた。
こちらの様子をうかがっているんだろうか。

「仕事・・・て大変なことか?俺も手伝おうか」

「いいわ。私しかできないことだし。ありがとう」

そう言って、ダリアはローズのヘリに手を振った。足元にあった車の発煙筒をつけ
煙で長いサインを送っている。じき、ヘリは遠ざかっていった。

『ありがとう』とサラリと口にしたダリアの横顔を見ながら、シェルは思った。

「あんたさ、結構・・・」

「え?」

「なんでもない」

言葉を濁し、シェルも発煙筒をつかみヘリに手を振った。

黒医師が以前言っていた言葉を思い出したのだ。『あのこは意外と正直だぞ』と。
人を殺さなくてはならない生活をしてた人間じゃ無い雰囲気があると。

  確かにそうかもしれないな。

  人を殺すことも嫌そうで、割と礼儀正しい暗殺者

  けっこうイイ奴かもしれない。

そんなことを思ったが、どうにも伝えたくなかったので
シェルは発煙筒の煙で誤魔化す。

「今回は大変だったよなぁ」

「そうね、明日体中筋肉痛だわ」

ダリアは裸足をぶらぶらさせている。足首も、膝も青黒くなってる部分があった。


「ヘリからのジャンプも練習してた?」

「まさか。初めてよ。死ぬかと思ったわ」

ハハハ、とそこで初めて二人で笑った。
一瞬固まって、また二人はクスクスと笑い始めた。


  けっこうダリアともうまくやっていけるかもしれないな

そう思ってダリアを見たとき、その黒目がちな目になにかを感じた。

   どこかで・・・?

「シェル!ブレーキどこーっ」

ねこが車内から叫び声をあげている。
シェルは急いで車の天井からもぐり込んでいった。

「右の、あ、それはアクセルだっ その、右の隣・・・っ」

そんな会話を聞いて、ダリアも車内が心配になった。
天井から覗きこむと、シェルが苦しそうな姿勢でハンドルを切っている。

「ねこ、運転はシェルにまかせて上においでよ」

「え、そう?」

「ダリア、おまえな・・・」

車は不規則なスピードで高速道路を走り続けた。
ダリアとねこは車上で夕焼けの景色眺めた。
まだ煙がでている発煙筒を振り回しながら、シェルの危うい運転を楽しんでいた。


高速道路に3人の笑い声が聞こえていた。

「あの豚との約束がなければね」

一人、ポツリと呟いたダリアだった。

 

 

CHAPTER 3 END → CAHPTER 4 「篤志」 START


 

 

あとがき

な、ながかった。やっと終わった。ふぅ。
新年にUPしたかったんですけど
気付けば2日になってたーぁ!

というわけで1/2が更新日になりました。
予告したことくらい実行したいなぁと反省中。

この章で物語全体の序盤が終了、次回からChapter4に突入です。
話自体に大きな骨組みが無さそうに見られてるかなぁ、この話・・・。と
どきどきしながら書いた3章でした。ここまでで、ひろげられる風呂敷は
ひろげたつもりです。4章からそれをたたみにかける話へと進む
つもりです。

今年は更新速度を上げたいし!!
短編読み切りも準備しているし。
このサイトで早く発表したいと思います。

では今年もよろしくおねがいします。

2004-01-02 サクラミズ


 


back next


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送