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02

<黒十字病院 PM9:00>

 

「弟が見つかった?」

「チガウ、弟かもしれない人と出会ったの」

ねこは黒医師の言葉を訂正し、昼間の出来事を話した。
黒医師は興味無さそうに話を聞き、「ふうん」と相づちを打つだけだ。

「先生、びっくりしないの? 
ダリアは弟が見つかれば仕事をする必要も無くなるのに」

「まぁそうなんだろうが・・・」

そう言いながら、黒医師は机に山積みした新聞を抜き取る。
何冊か雑誌が床に落ちたが、それも気にせず新聞の紙面をめくった。
ねこが雑誌を拾おうとすると、黒医師が一言付け足した。

「話がウマすぎて、気に食わん。」

ねこは眉間にシワをよせ、「どういう意味?」と聞き返した。
黒医師は新聞記事を眺め、考え込んだままだ。

何の記事を読んでいるのかと覗き込むと、それは2週間前の日付だった。
『都市高速で銃撃戦』 小さな記事にはそう見出しがついている。
ほんの数行の記事だったが、それはソニアを追ってダリアがヘリから飛び降りた様子も
書かれていた。

「こんな記事が載るくらいだ。
ダリアはある意味有名になってしまったんじゃないか?」

「有名?」

「俺にもわからんけどな。なんとなく・・・」

それ以上黒医師は喋らなかった。何か考え込んでいる様子だったので
ねこはそれ以上聞かなかった。
落ちた雑誌を拾い、それをもとに戻す。

「だいたいダリアはどうした、そいつが弟だと確証を得てるのか?」

「うーん・・・なんだかアツシと少し喋って、すぐ帰っちゃった」

「その弟は?」

「明日ダンの店に来るって」

そう言いつつ、部屋の時計に目をやると時計は9時を回っていた。
シェルが仕事から帰ってくるのを待っていたが、そろそろ梅水花園に行かなくてはならない時間だ。

「先生、もう行くね。シェルが来たらヨロシク」

「おー、わかったわかった」

病院を出て行くねこを見送りながら、黒医師はまた考え込んだ。


  なぜ今頃都合よく弟が現れるんだ。

  それとも、俺が考えすぎなのか?

 

 

 

<西大寺路・Bunch Of Pigs>


 

夜半、昼間以上に店は混んでいる。
昼間はダリア目当ての新規客が店を埋めるが
夜にやってくるメンバーはいつもどおり、ダンの手下ばかりだった。

カウンターは混み合っているのでキジは店の奥に座り、
備えつけのPCの電源を入れた。

「キジ君は何を食べる?」

ダンが「キキララ」Tシャツを着て注文を取りに来た。
ピンク色の布地に幼児的なキャラクター絵。

おそろしいほど似合っていない。丸坊主にサングラスなだけでも
怪しい風体なのに、ますますいかがわしい雰囲気がプラスされている。

「コーヒーをくれ。それよりダン、その服さ、」

そう言いかけた時、店のドアが開く音がした。

「お、ダリアじゃないか」

店内を見渡した後、ダリアはこちらまでやってきた。
夜に彼女がやってくることは珍しい。

「どうしたぁ 仕事は明日のお昼だヨ?」

「ダン、手伝って欲しい」

「へ、何を?」

 

「・・・今日さ」

ダリアの話はこうだった。


明日、弟かもしれない少年が来る。


「私は彼と話してそこで別れるから、そして」


そして、彼の帰る所を突きとめて欲しい 、と。

 

ダンはカウンターからコーヒーを持ってきて、それを3つのカップに注いだ。
それを二人の前においてから、自分もテーブル席に腰かける。
一息ついて、ポツリと聞いた。

「ダリアは、そいつが自分の弟か分からないのかィ?」

もっともな質問だった。

その問いに、ダリアは少し悲しそうな顔で笑った。


「篤志を最後に見たのは、5年も前。
 正直言って、はっきりわからないのよ」

そんな笑い方が似合わない女だと、キジはふと思った。

 

 

 

 

<黒十字病院  AM7:05>

 

目覚ましが鳴るよりも先に起こされると
無性に機嫌の悪くなるタチの人間っているだろう。それが俺だ。

 

黒医師は、朝から何度も鳴るインターホンに目を覚ました。
10回くらい無視していたが、 しつこく鳴り続けている。
ベッドから体を起こし、足早に病院の鍵を開けた。
ドアの前には、 壁にもたれかかったシェルがいる。顔色が悪い。


「おっさん、水・・・」


「ここは喫茶店じゃないぞ 昨晩何してやがった」

「店長に引き連れられて朝まで飲み屋に・・・う、」

真っ青な顔をしたシェルは、洗面所へ駆け込んでいった。


 こいつが二日酔いとは珍しいな

胃腸薬でも処方してやろうかと、薬棚をあけた。
洗面所から足音が戻ってくる。ちらりと見ると
タオルで顔を拭きながらシェルは冷蔵庫をあさっていた。


「先生、ねこは?」

「昨日の夜なら花園に行ったぞ」

「知ってる。今日は病院に戻ってくるとか言ってたか?」

「知らん」

薬棚を閉じ、錠剤をシェルに渡した。
冷蔵庫からオレンジジュースを手にしたシェルは
それで薬を飲もうとする。

「おい、水で飲め。
 ねこは多分西大寺路だろう。アツシとやらが来るからな」

その言葉を聞いて、シェルは薬を口に運ぼうとした手を止めた。

「え?」

「だから、水で」

「誰が来るって?」

「アツシだ。ダリアの弟が見つかったんだよ」

黒医師はTVの電源をいれた。
適当にチャンネルをまわし、天気予報で指をとめる。

太陽のマークが画面いっぱいに散らばっているのを見つつ、
午前休診にしようかと考えが浮かぶ。

「おい、俺たちも見に行くか。ダリアの弟ってやつを」

名案だ、と黒医師は考えた。
TVは天気予報からニュースへと内容が移っていく。
昨日の交通事故の様子が流れている。

シェルの反応が無いので、TVから目を離し後ろを振り返った。

 

シェルは、おかしな表情をしていた。
どこを見ているか分からないような顔。

「シェル?」

手に持つオレンジジュースも減っていない。錠剤も手のひらにあるままだった。

「おい、シェル?」


  
  ダリアの弟の名前が

  アツシ?

 

「どうした、おい大丈夫か」


不審げに自分を見る黒医師に、「頭が痛い」と行って病院を出た。
何か呼び止めている風だったが、足を止める気にはなれず
二日酔いの頭痛のまま、シェルは小走りにアパートへ向かった。

  
   『ねぇ シェル。ダリアね、弟がいるんだって。』

  −弟?

  『この街で探してるんだって。知らない?』
 

そうだ、梅水花園に行く途中、ねこがそんな話をしていたことがあった。

  その時、俺は名前までは聞いてなかった。

アパートの階段の前で、いつのまにかシェルは立ち止まっていた。

 

 

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