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07

マイクの声。

拍手が聞こえる。

 

そのあとは、音楽とざわめきが聞こえてきた。

僕はその音で、固く目を閉じる。

 

 

 

 

<劇場 休憩室>

 

ドアをノックする音が聞こえる。
その音を聞き、タキシードを着た少年はため息を吐いた。

「今行くから」

そう言いながらも、革張りのソファーの上で寝返りをうつだけで動こうとはしない。
ドアのノックした人物は、彼の行動を予測しているのか遠慮無く扉を開けた。
前髪をきちりと固めた青年が部屋に入ってきた。
彼は部屋に入り、ソファーの上の少年を目にして眉間にシワをよせる。

「ハインツ、行きますよ」

「入ってくるなよ 行くっていっただろー」

ハインツと呼ばれた少年は渋々起きあがると、脱いだ靴をはき直した。
その様子を見る青年は、音のないため息を吐く。

「上着がシワだらけですよ」

「もう帰るだけだし。構わないだろ。
 それより兄さんはどこ?」

「挨拶を終えられた後、別件ですぐに発たれました」

ああそう、とハインツは答えソファから立ち上がった。
上着のホコリをはたきながら青年のそばによってきた。

「クラタ、帰ろうよ。こんなパーティ疲れるだけだ」

その言葉をそっくり返してやりたい、と青年は思う。

気分屋の少年の世話は、自分には向いていない。

肩をわざとらしく落とし,”クラタ”と呼ばれた青年は
ハインツと一緒に部屋を出て行く。


 

 

 

<劇場 ホールエントランス>

 

 

 俺は自分の瞳が見られまセン。
 それはきっと、とてもコワイものなのです。

 

 

ダリアはダンの言葉を聞き返した。

「自分の顔を見ることができない・・・?」

「ウーン・・・俺はね、死ぬほどこの顔が嫌いなの。
色々思い出すワケよ。
自分の顔を眺めてるとどうしてだろうカネ、吐き気がしてヒドイときは倒れちまう」

そう話す彼の瞳はサングラスで隠されているが、
どこか遠い目をしているような気がした。

   それでいつもサングラスをしているのか。

よくみればダンは背も高く均整のとれた体格をしている。
奇妙な服と髪型を変えてその目をみせれば誰もが振り向く容姿かもしれない。

そのことを彼自身が解っているのか、憎んでいるのか。
だから自分を道化のように、装っているのだろうか。

「どうしてそんな話を私に?」

「さぁネ。オネェサンも後悔したくないダロ。」

「何に」

「手を差しのべれば救えてたかもしれない、なんて
誰だって思いたくないだろう 」

「ダン・・・私は、」

ダンが突然シッと言葉をひそめた。
ダリアを通路の奥に連れて行くと、
誘導するようにホール入り口を手を向けた。

そこに、アツシがいた。

「・・・アツシ」

談笑している人々の群れで一人静かに立っている。
こちらには気付いていないのか彼の視線は一点から離れない。
ホールを取り囲む回廊を、ずっと眺めているようだった。

 

  何を見てるの?

 

「クラタ、明日の予定は?」


誰かの声がする。アツシの見ている方向から二人、タキシードを着た男が歩いてきた。


「明日は学校に行って下さい。
授業も随分休まれていますし」

   パーティの参加者?彼らが何?

回廊から歩いてくる二人がホール入り口の広間にさしかかったころ
アツシはスーツの懐に手をいれた。

その目。その動作。

ダリアには即座にわかった。同じことを、同じ状況を知っている。

 

   私と同じ。同じ事をしようとしている。

 

「やめて!!」

叫ぶより早く駆けだし二人の男の前に飛び出た。

懐からだした拳銃で狙いをつけたアツシは
目の前にダリアがいることに驚いた表情をしたが、
そのまま引き金を引いた。


「よせっ」

ダンがアツシに飛びかかり、ダリアは後方二人の男の服をつかみ
無理矢理床に伏せさせた。

銃弾はそれて、壁にめり込む。


発砲の音はホールの雑音にかき消されるほど小さく
人々はダンとアツシが喧嘩をはじめたのかと
好奇の目をよせるだけだった。

アツシはダンを蹴り落としそのまま入り口から走り去った。

「アツシ、待って!」

ダリアも起きあがり追いかけようとした。が、その腕を掴まれる。

「待て 君は誰だ」

狙われていた男のうちの一人が、ダリアを鬼のような形相で睨んでいる。
今は構っている時間が無い。その腕をふりほどき、ダリアは駆けだした。


 

 

 

クラタは走り去るその姿を眺めていたが、すぐに呆然としているハインツを抱き起こした。
クラタの部下が事態を察してやってくる。


「クラタさん、今のは」

「ああ、ハインツをフォーラムハウト家と知って狙ったんだろう。」

「あの助けにはいった女は、一体」

「・・・とりあえずハインツを屋敷に送り届けろ。レオン様には私から連絡する」


クラタは部下に指示し、もう一度ホールの壁にめりこんだ弾丸を眺めた。
狙撃手は目の前にいた。客の一人として完全に擬態していた。

何かを狙うそぶりはまったく感じられなず、静かだった。
自分もまったく気付いていなかったその狙撃犯を、
最初っからあの女は見つけていた。

   
   それが結果的にハインツの命を救うこととなった・・・

「おい、あの女を追え」

クラタは部下に指示し、足早に天青劇場を後にした。


 

<天青劇場 前>

パーティは終わったのか、何人かがホールから出てきては車が去っていった。
シェルとねこは劇場の外からその様子を眺めていた。

「ダリアが出てこないねぇ」

「ダンもだな」

「1時間まって帰らなければ、もどれっていわれてるの」

「じゃあそろそろ帰ろうか?」

ねこは「うん」とうなずいた。シェルもホッとする。


  正直、この場にいたくない。


帰ろうと駅に向かって歩き出したとき、微かな銃声が耳に届いた。

誰も気付いていないが、ホールエントランスの方だ。
シェルが振り向く方向を、ねこもつられて目をやる。

誰かが乱闘しているのが見えた。

「あれ・・・ダンとアツシ?」

倒れるダンと、逃げるように走り出すアツシの姿。
そのあとダリアがエントランスから走り出てきた。


「シェル?」

ねこが気付いたとき、シェルは駆けだしていた。
アツシを追いかけて、彼も走り出す。

  止めなければ。

  
  アツシの戻る場所へ行けば、彼女はあの男と出会ってしまうのでは。

そんな不安がシェルの頭の中によぎった。


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