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09

<黒十字病院>

 

まったく酷い有様だった。
夜更けに突然の急患。
扉を開ければ 血まみれのアツシを抱えたダン・ヴィ・ロウとねこが立っていた。

 

「一体何があった?」

黒医師は手術台にアツシをのせ、その姿を観察しながら二人に聞いた。
ねこは黙り込み、仕方無くダンが状況を話している。
それを聞きながら黒医師はぼりぼりと頭を掻いた。

「全く・・・どうして」
そこまで口にして、黒医師は言葉を止めた。

  ・・・どうしてこうも 彼らの周りでは死人が出るんだ・・・

「ともかく、遺体の処置は俺がする。もう帰っていいぞ」

手術室を出たダンとねこは、重苦しい空気の中待合室のソファに座った。
待合室から差し込む光が夜明けを告げている。


「なんか・・・長い夜だったな」

ダンのつぶやきが待合室に響いた。
手術室では時折カチャカチャと金属質な音が聞こえてきたが、
他には何の音もない。


「ダン、私は家に帰る」

ねこはそう言うと、ソファから立ち上がった。
ダンも腰を上げ、車のキーを掴んだ。

「乗っていきナ。アパートまで送っていくヨ」

アツシを運ぶために借りた車にエンジンをかけ、二人はシェルのアパートへ向かった。

 

 

 

<中央交差点>

ねこを家まで送ったあと、ダンも西大寺路に帰ることにした。
大通りに出ると、 明け方とあって車一つ通っていない。

薄青い空に、微かな赤みが帯びている空。
昨日の出来事が嘘のような、静かな朝だった。

5分も運転しないうちに、反対車線を歩く人影が見えた。
ダリアと、シェルだった。
ぼんやりとした表情で二人とも歩いている。

ダンは車を止め、クラクションを鳴らした。


「おおい 送るゾ。車に乗ってけ」

ダンに気がつき、二人はそばまで歩いてきたがダンの車に乗り込んだのはダリアだけだった。


「俺は歩いて帰る」

「そうかぃ。ネコちゃんならアパートに帰ったヨ」

「わかった。ダン、ダリアだけ先生のとこに送ってやってくれよ」

ダリアをちらりと見ながらシェルは言った。
当の本人は、生気の無い表情で助手席に座り込んでいる。


「おまえこそ大丈夫か?」

「・・・じゃあな ダン」

シェルは車道を一人、歩いていった。

 

 

「腑に落ちないヨナー」

一人つぶやくと、ダンも運転席に戻った。
エンジンをかけようとして、隣の助手席を見るとダリアがうずくまっている。

小刻みに肩が揺れている。
ダンは下から彼女の顔を覗き込んだ。

「・・・ダリア」

ダリアは泣いていた。息を殺して。歯をくいしばって。
自分で自分を抱きしめながら。


ダンは思わず彼女を引き寄せた。
一瞬からだをこわばらせたもの、ダリアはそのまま泣いていた。
声にならない泣き声で。

「こういうのは苦手なんだよな」

ダンはぼそっとつぶやき、そろそろとダリアの頭をなでた。

「声を殺して泣くな」

「・・・と思う?」

ダリアが何か言ってる。

「私も手をさしのべていれば、あのアツシを救えていたと思う?」

頬に涙がつたう。
嗚咽まじりの泣き声を聞きながら、ダンは何も返せる言葉が無い自分を
歯がゆく思った。

 

 

<シェルの家付近の路地>

いつのまにか夜が明けかけている。
家路を歩きながら、シェルはその空をぼんやりと見ていた。

 

 

   『俺はいつか断罪される』

 

   3年前、ねこにそう言った。

   いつかきっと俺の罪を償う時が来るだろうと。
   その時まで君と一緒にいたい、と。


   ただ、あまりにも自分はバカだ。
   俺はずっと目の前にいた人のことを気付かなかった。

 

   殺した男の子供が、ずっと傍にいたのに。

 

   俺が殺した男には、家族がいた。
   男の妻と、娘と息子。 小さな姉弟がいたのだ。


   殺した男の顔も、声も、つかまれた腕の痛みも
   鮮明に覚えている。
   でもどうしてだろう。

   ただ、母親も、子供らも顔にフィルタをかけられたように、一度も思い出せなかった。
   意図的に心が消してしまったのだろうとも思っていた。

   微かな記憶は彼らの名前だけだった。

 

   息子の名は、篤志。

 

   どうして気付かなかった?

 

   あの男の息子の名は篤志。

   ダリアが探す弟の名も篤志。


   あのころと今で俺の容姿もまるで変わっている。
   彼女はまだ子供だった。今の姿が想像できないほど、幼い少女だった。

   今になっては、それなりに面影があることに気がついたが
   まさか自分のそばにいるとは思わなかったから、いるとは思いたくなかったから気がつかなかったのかもしれない。


   そして、それは彼女も同じ。
   彼女は、まだ俺のことを気付いていない。

 

   ダリアは、俺が殺した男の娘だ。

 

   俺は、この事実をどう受け止めればいい?
   罪を償う時なのは、わかっている。
   ただ、こんなにもそばにいるとは思っていなかった。

   そして、偽アツシを裏で操っていたあの男。
   彼がそばにいたことも、何もわかっていなかった。

 

 

 

 

螺旋階段を上がり、家の戸を叩いた。
ねこがすぐに出迎えてくれ、心配そうにシェルの顔をのぞきこむ。

「アツシは病院に運んだよ」

「ああ・・・さっきダンに会って聞いた。俺も後で行く」

靴を脱ぎ、家に入ったところでスーツを着たままだったことにようやく気がついた。
Tシャツに着替え、ベッドにすわりため息を吐いた。

ねこはオレンジジュースを片手に部屋に入ってきたが、
それをシェルにわたしてもグラスをにぎりしめたまま、 飲もうともしない。


「シェル、温かいお茶でもいれようか?」

そういって台所に行こうとしたねこの手首を、シェルは強引に引っ張った。
不意の動きに、ねこの身体はバランスを崩しベッドに倒れ込む。

「シェル?」

グラスをサイドテーブルに置き、シェルもねこの横にごろりと横たわる。
つかんだ手首を離さないまま、ぼんやり呟いた。

「眠りたい」

毛布に顔をうずめ、そのまま動かない。

「・・・眠っていいよ?」

ねこは体を起こし、足元の毛布をシェルにかぶせる。
もう一度横に寝て、シェルの手をとった。

「眠りたいんだ」

その手は微かに震えている。

「眠っていいんだってば」

ねこはシェルの頭を包み込むように抱き締めながら、
彼の寝息が聞こえるまでじっとしていた。

 

CHAPTER 4 END → NEXT CAHPTER 5 「フォーラムハウト part1」(仮題)

 

 

 

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4章あとがき

今回、予定してたやりとりを一つ削りました。
たいしたことじゃないんですが、ダンとトニーの会話はカットされました
ダン:「金貸してクレー」
トニー: 「・・・・(怒)」
のような会話後、ダンはシェルの店に行く展開だったけど
あんまページも無いんで没りました。

で、よく考えたら今まで削った場面が結構あるなーと思い、
発表できる場が無いかなぁ・・・と考えたのが裏面ページの由来です。


WEB拍手の中でたまに呟いていた「裏サイト」の件ですが
ようやくオープンしました。裏っていうより、反対側サイト。なんだ それ。
とりあえず「Reverse Side」としてUPしております。

ちょっくら見てやるか、というお方は行ってみてください。
TOPページ、下の「NEXT 20000」と書いている部分が実はリンクになっています。
Chapter4くらいまで読んだ方を前提に作っていますので入り口はややこしく。(←オイ)


 

次回からChapter5です。タイトルが仮題なのはpart1をつけるかつけないか迷っているから。
あとで変わるかもしれません。

そういえばそろそろサイトが開いて一年なのです。続く自分を褒めてみる。
ではNEXT CHAPTERにて。    サクラミズ

 

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