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07

 

 

 

 

目の前は、 終わり無く赤い

 

 

 

 

 

7.

 

<西大寺路>

 

明け方に、ダンは目をさました。
夜遅くまで店が開いていることもあり、普段は昼まで眠っている。
ただ今日は、朝から並々ならぬ空気を感じた。
いつになく西大寺路が静かで、音一つしないのだ。

客が来てしまわない内に、店のドアに「臨時休業」と書いた。
店の中で一人、TVをつけチャンネルを回す。流れるニュースをぼんやり眺めていた。

「おい、店開いてないぞ」

いつのまにやってきたのか、カウンターにキジが立っていた。
ダンはTVから目を離し、キジを見て「ヨウ」と手をふる。

「今日は開けないのか?」

「今日はオヤスミ。明日は明日にならなくちゃ ワカラナイナ」

「おまえが何いってんのかわからねぇ」

キジの指摘もふんふん、と聞き流し、今度は新聞記事を読む。
一面には「梅水地区の眠り姫 行方不明」とおおきな見出しがついていた。

その記事の下に「梅水地区に抗議する団体たち」の写真も載せられていた。


  これでトニーが攻撃にあった抗議集団か・・・

「『娼館という名目上、表だって店に来られない客が続出。事実上の営業中止となっている』だってサ。
トニィも大変ダナ」

ダンが新聞を読み上げても、キジは別のことを気にしている風だった。
ダンのそばの椅子に座り、一緒にTV画面に映る梅水花園の画像を見た。

「・・・ねこは見つかったのか?」

「俺に何の情報も無いヨ」

キジもねこの失踪を心配している。
居なくなって以来、西大寺路や天水地区をさがしまわっていた。

「俺は昨日シェルの家まで様子を見にいったんだ。そしたらシェルのアパートの前に
見知らぬ女が立ってて」

「ほ−う」

「ねこの同級生らしい。梅と名乗っていた。その・・・梅はねこのことを
梅水花園の眠り姫って知らなかったみたいだな。俺知らずに言ってしまったんだ」

「おほ−ぅ」

二度目のダンの奇声で、キジは心底キレそうな顔を見せた。
わかったわかった、となだめるとふてくされた表情でもう一度TVを見始める。

   シェルは「ダリアを見守れ」と言っていた。しかし。

   第一の攻撃はシェルの逮捕。第二はトニーの足止め。第三は・・・梅水花園の眠り姫の失踪

   これで犯人の狙いはすべて目論見通りなんだろうか?いや、次は・・・

ダンは考える。シェル、トニー、ねこ。これはシェルの周囲の人物であり、きっとダリアの周囲の人物でもある。
お互いの周囲で残っているのは、西大寺路と黒十字病院。
つまり、自分と黒医師だ。

「・・・キジ  当分ここには近づいたらいけないヨ」

ダンは新聞を閉じ、キジの顔を見る。

「俺が迎えに行くまで、この店には絶対来ちゃいけないヨ」

ダンはそれ以上何も言わなかった。
ダンの表情を見て、キジは素直に従うことにした。

「わかった。じゃあ俺帰るよ、連絡しろよ」

「あァ、ねぇちゃんによろしくな」

ダンはニコニコして手を振った。
キジもいつもどおり店の階段をのぼって外へ出る。


  あいつがあんなマジな顔をするのは始めて見た
  何か企んでるんだろうか

キジはまさかな、とつぶやき店を出ていった。
出がしらに、ダリアとすれ違う。
ダリアはキジに気づいていたみたいだが、少し笑顔をみせたあと
すぐにダンの店へと降りていった。

  ・・・・?

「臨時休業だぞ?」

キジの問いかけも聞かず、ダリアは店の中へ入っていった。

 


 

<西大寺路 ダンの部屋>

 

「急な呼び出しとは何カナ?」

ダリアを店の中へいれると、カウンターの奥にある
ダンの自室部分へ案内した。

コンクリ敷きの床や壁に、TVとパソコンがぽつんと陣取り
ダンボール箱に服が入っている。それだけの質素な部屋だった。

「なに この部屋。寝場所が無い」

ダリアが言うと、部屋の真ん中らへんを指さし「いつもここらへんで寝てるのサ」と答えた。
店がゴチャゴチャした内装に比べ、ダンの住む場所はとてもシンプルで
生活感の無い。

「それより、本論といこうじゃないカイ?」

オレンジジュースを持ってきてダリアに渡すと、コンクリ床にダンは腰を落とした。
ダリアはバッグの中からもってきた一枚の封筒を差し出す。


「これはじつは一ヶ月くらい前に私に届いていたものなの」

ダンは封筒を開く。”あなたを招待します。”とだけ書かれたメモだった。
ダリアはもう一つの封筒もダンに渡した。今度のは、すこし分厚く何か入っているようだった。

「それは今朝。私の家のポストに入っていてまだ開けてないの」

ダンが用心しながら封を破ると、開けた場所から髪の毛がバサバサと落ち出た。
ダリアは思わず声をあげる。 コンクリートの上に散らばるのは、薄い茶色の大量の髪。


「・・・ねこの髪の色に似ているわ 」

封筒にはまだ脹らみがあることに気がついた。
恐る恐る中をのぞくと、そこには制服のリボンが入っていた。
ねこが通う、東水学園の制服だった。

「これもネコちゃんのリボンか?何かメモは付いていないカイ?」


封筒をには、また一枚のメモが入っていた。
ダンが顔を近づけて中身をのぞくとこう書かれている。


「”あなたを招待します 
   あなたのお気に入りのペットもご用意しております。
   七時に天青劇場にてお迎えにあがります。 ”」

「お気に入りのペット・・・て」

ダリアはダンの顔にすがった。


「ネコちゃんのことだろう。コイツがネコちゃんをさらい、
髪の毛を切って制服のリボンごと送りつけてきた。
向こうは本気だってことだろう」

「本気・・・って何が?何か恨まれるようなことを私は!」

「してない筈だ。だから、招待されてみようじゃないか」

ダンは真面目な顔で提案した。その表情に、ダリアも少し落ち着く。

「俺も行ってやる。劇場が場所なら着替えて行くぞ。
  綺麗な格好でオイデ、オネエサン」

そう言ってダンは身支度を始めた。
招待状をカバンに入れ、アパートで身支度を調えようと思い、店の扉に手を掛ける。

「たとえどうなったって、僕はキミの味方ダヨ」

ダリアはその言葉に足を止めた。
振り返ると、ダンは軽く笑って「愛の告白じゃナイからね」と付け足す。
つられてダリアも笑顔を見せた。


「・・・ありがとう」

ダンの意図はよくわからなかったが、そう答えていた。 

「また後で」と言い残し ダリアは店を後にした。


 

 

3時間後、約束の場所にダンは現れなかった。
ダリアは一人、招待状に示された場所へ向かった。

 

 

”たとえどうなったって、僕はキミの味方ダヨ”

 

その言葉が、心に残った。

 

 

 

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