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chapter6 01

 


フォーラムハウトとは元来薬屋の名前である。
百年前から続く老舗の薬屋で、今は巨大な製薬会社となっている。

拠点をこの都市におき、市場の6割を占める。
医療関係から町の薬屋まで、どこに行ってもフォーラムハウトの薬が置かれる程
薬関係社には有名な会社だ。

この古き薬屋は、都市に溢れんばかりの寄付を何度も行っている。
その巨額さからか、都市はいつしかフォーラムハウトに対し
頭が上がらなくなっている……という噂すら、ある。

その巨大な薬屋を統べる主人の名を、レオン・フォーラムハウトという。
若干28歳。
彼の父が急逝したことで、数年前に就任した。

 

 

<黒十字病院>

「『蛇のような男だ』…と、続きはどこだ」

黒医師はレポートをめくる。
数枚のレポート用紙は、バラバラに挟まれていたせいか
何枚もめくってようやく続きを見つける。


「あった。ええとな…『と、言われている』」

シェルはレポートに手を伸ばした。
自分で読んだほうが数倍早い。
黒医師の持っているレポートに手をかけると
すかさず避けられた。

「おっさん、俺自分で読むよ」

「俺が解説を交えながら読むって言っただろ。黙って聞け」

そう言って、黒医師は黙り込む。
黒医師の後ろで薬学事典を読んでいたキジも、その様子にため息をついた。

  解説を待つ間に 読むって言ってるんだけど

レポートを読むたびに黒医師なりの解釈で説明が入る。
わかりやすいが、読んで数分考えた後に話し出すからタチが悪い。
その間、ずっとシェルは大人しく待っているのだ。

コーヒーをすすりながら、3分ほどして黒医師は”解説”を始めた。

「レオンには弟が二人いる。
 その一人が、ハインツ・フォーラムハウトだ。
 どうやらレオンはハインツを溺愛しているらしい。
 公式の場に現れるとき必ずといっていいほどハインツを連れている」

そいつがねこの同級生だよ、とキジが後ろから付け足した。

「・・・もう一人の弟は?」

「面白いことにな、もう一人の弟は大嫌いらしいぞ」

黒医師は楽しそうだ。

「先生よ、ワイドショー並の解説はいらない。
 早く本論に入れよ」

キジが後ろからせっつく。
もともとフォーラムハウト家について徹底的に調べたのは
他でもないキジ自身で、レポートの作成者も彼なのである。

 

黒医師はしぶしぶもう一人の弟への解説を省いた。

「わかったよ。たかが薬屋の身内話をするために
俺はここまで調べたわけじゃねぇ」

黒医師は目を光らせた。
一筋縄ではいかない話をするとき、 大抵黒医師はこんな顔をする。

「先生、調べたのは俺だろ」

キジが後ろで抗議しているが、黒医師は気にも留めず話を続けた。

「フォーラムハウトの成功の鍵は、薬だ。
 だがな、真っ当な経営じゃないところが面白い。
 裏社会でも薬を売っている。それがひどく金回りがいいんだよ。
 巨万の富を得た原因の一つだ」

「薬?」

シェルが聞き返す。

「解毒薬だ」

ほぉ、と返事をした。
シェルはその方面の知識があまりないので
それ以上のコメントが見つからない。

無反応のシェルをみてつまらなさそうな表情の黒医師は
解説を続けた。


「悪質な毒を断ち切る数多の解毒薬。
 それを普通の病院には売らない。
 闇のルートで売っているってワケだ。法外な値段でな」

「ふぅん。独占市場なんだな」

素直な意見を述べると、黒医師にため息をつかれた。


「おまえさんは、時々子供の発想をする。もっと裏を読め」

   あんただって時々爺くさいじゃないか

シェルは反論しようと思ったが止めた。続きが聞きたいからだ。

「こうは考えられんか。その毒すらフォーラムハウトが作っている、と」

「は?」

ぽかんとするシェルに、キジが黒医師の説明のフォローを付け加えた。

「その毒が金儲けの源だよ

 毒と解毒の輪廻転生だな 」

 

 

 

 

<シェルのアパート>

 

「あんまり意味がわからないんだけど」

黒十字病院で聞いた情報をねこに説明した。
シェルはレポートを見直しながら、詳しく話し出す。
ねこに難しい文字は読めないので、 直接読んで教えている。

「つまりな、レオン・フォーラムハウトは
 生半可な薬じゃ太刀打ちできないような毒を持ってる。
 たとえば、命を奪うほどの強力な毒だとする」

「強い毒」

ねこは首をかしげながら話を聞いた。

「そんな毒があれば、欲しがる奴も出てくる。
 それをレオンは高額で売る」

「うん」

「買った奴が誰かに毒を盛る。そしたら、
 今度は毒を盛られた人へ解毒薬をさらに高額で売る。
 命が惜しければどんなに高値でも売れるだろ?
 時期がくれば、その解毒薬すら太刀打ちできない強力な毒を世に広める
 それがフォーラムハウトの裏側なんだそうだ」

イタチごっこを、自らの手で操作しているようなものだ。
悪質なやり方だ、と黒医師はぼやいていた。
シェル自身も同じ感想だった。

「治すも、殺すもフォーラムハウトに左右されるの?」

「そういうことだな」

ひどいね、とねこはつぶやく。
切られた髪を揃え、前より短くなった髪が真新しい。
シェルはレオンの詳細を聞いてから、ねこが無事戻ってきたことが
つくづく幸運だと感じた。

  なんでも、選りすぐりの毒薬師を抱えているらしい

キジが病院で言っていた。キジは毒の種類や、流通ルートを探っているようだった。
ダンが姿を消した理由がフォーラムハウトにあると見て、徹底的に不審な点を
洗い出している。

シェルはレポートをめくる。毒関係が記されたページを飛ばし
最後に書かれた項を読み直した。

『ハインツ・フォーラムハウトについて』

レポートには、ハインツはレオンの弟であるという理由で
何度も暗殺未遂にあっていると書かれていた。
最近では天青劇場での暗殺未遂が事件として
記録に残っている。


  おそらくレオンがダリアを手に入れた理由は
  この弟暗殺未遂に関係があるんだろう

あの時、ハインツを狙ったのは篤志なのだから。
シェルはレポートを閉じた。

 

 

 

 

<フォーラムハウト邸>

 

ハインツが学校から戻ってくるとレオンのそばに黒髪の女がいた。
声を上げて笑っている兄を見て、ハインツは目を丸くする。


レオンはハインツに気づき、手招きをする。
近づきながらその女の顔をよく見ると、どこかで
見たことがある気がした。どこだったか、わからない。


「ハインツ、こちらはダリアだよ」

レオンが上機嫌で言う。

「兄さん、いい加減にしないと義姉さんに
 離婚されちゃうよ」

てっきり兄の新しい浮気相手かと思ってそう返答すると、
レオンは笑いながら否定した。

「違うよ、ダリアは君の家庭教師だ」

その言葉に眉をひそめる。
冗談かと思い、傍に立つクラタの顔を見ると
クラタは無言のままうなづいた。

「僕の家庭教師?」

黒髪の女は、ぎこちなく微笑んだ。

 

  

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