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12

 

 

 

 

Letter of invitation


  それは、一通の招待状

  私を弟へと導く 微かな道だった

 

 

 

 

 

 

 

 

12.
 

<シェルのアパート>

目が覚めたらもう昼をまわっていた。
時計は1時を指している。随分とねむっていたようだ。

隣をみると、ねこも眠り込んでいた。その姿に一安心し、枕にうつぶせる。
小さな寝息をたてて眠るねこを、シェルは寝ぼけながら眺めていた。

  頬が・・・

ねこの左頬は青くなっている。
殴られた痕だろうか。。
昨夜は暗くて気がつかなかったが、腕にも擦り傷があった。


  顔に湿布って貼ってもいいんだっけ。

黒医師に電話で聞こうと思った。
そうだ、トニーにもねこが帰ってきたことを連絡しよう、そう思い
ねこを起こさないように静かにベッドから出る。

ストーブの前に落ちてるTシャツを着て、タオルを拾い集めた。
もう一度眠っているねこを見て、ねこの髪型の異変に気づいた。
片方の髪だけ、短くなっている。明らかに、長さがちがう。

 ・・・

どんな目にあっていたかと思うと、言いようの無い苛立ちがわいた。
そっと毛布をかけ、シェルはキッチンに行った。
黒十字病院へダイヤルを回す。

二回のコールで、黒医師は電話に出た。

「あ、先生、俺。昨日さ、ねこが帰ってきた。」

話ながら、窓を見た。空は晴れている。


「・・・ああ、夜中。怪我と言うほどじゃないけど、殴られたあとがあって」

『顔か』

「そう。湿布とか貼っていいのか?」

『夕方にでも病院に連れてこい。
 それより、今すぐTVをつけろ』

「TV?」

黒医師が電話越しに妙なことを言う。
もう一度聞き返すと、黒医師は「とにかくつけろ」と繰り返した。

『チャンネルは847,早く!』

渋々TVをつけ、チャンネルを回す。
847にすると ワイドショーがやっていた。
司会者の女が何か興奮して説明している。
何か大事なニュースがあったのかと思ったので、拍子抜けした。

「なんだよ おっさんこれ・・・」

『あああ おまえがトロトロしてるから
切り替わっちまっただろ。さっき映っていた女ー 』

黒医師がぶつぶつとうるさいので、受話器を耳から離した。
もう一度TVに目線を戻すと、画像が司会者からどこかの映像に切り替わっていた。
きらびやかな電飾と赤い絨毯。どこかで見た場所。

「天青劇場?」

何かの集まりなのだろうか。普段TVで見る女優や役者が
そこに映っている。首からリボンをかけていて、何かを表彰されてる風景だった。

「なんだ これ」

受話器を持ち直し、黒医師に聞いてみようとしたとき。

画面には身なりのいい男が映った。
見覚えがない。その男はにこやかにインタビューに答えたあと、劇場を去っていった。
それだけの場面。
映像の右下には、「フォーラムハウト氏」と出ている。

ただそれだけの画像だが、その傍らにいる女に目を疑った。
その”フォーラムハウト氏”と腕をくんで歩いている女。
きらきらと輝く紫色のロングドレスに、長い黒髪。
その顔。


「・・・ダリア?」

背中が大きく開いたドレスを着て、その男と
仲良く腕を組んで笑いあっている。
TVから流れる画像に、シェルも黒医師も目を疑った。
こんな笑顔の彼女を、ここにいる誰も見たことがない。

シェルが沈黙していると、黒医師が確認するように
話を続けた。

『今のはダリアだろ。なんであの子が映っている。
 あの子は暗殺者だぞ、人目にさらされることを最も厭う職じゃないか』

黒医師の言うことはもっともだ。


   なんでだ?
   どうしてあんな場所にいる?

TVの司会者は、”フォーラムハウト氏”が女性連れで
公式の場に現れることが珍しいと解説していた。
もっぱら愛人疑惑として騒動しているようだった。

   この男は誰だ?どうしてダリアと一緒に・・・ 

TVの音量が大きかったのか、眠り込んでいたねこが起きていた。

「シェル」

シェルはとりあえず黒医師との電話を切った。
ねこが少し寝惚けた表情で、キッチンに入ってくる。

「何か飲むか?冷蔵庫カラッポだな・・・」

冷蔵庫の中を見ると、ろくに食べ物が無い。
何を出そうか目前に悩んでいる間中、ねこはピクとも動かなかった。


「ねこ?」

冷蔵庫を閉め、ねこの様子を見る。
TVから流れる画像を見て、ねこは表情を凍り付かせていた。

「どうした?」

ダリアを見て驚いたのだと思った。
ねこは一歩後ずさって、見たこともない嫌悪の表情を浮かべている。


「この人、わたしをさらった人」

ねこは目を合わせないようにして、
画面の”フォーラムハウト氏”に指を差した。

「こいつが?」

頷きながらも、ねこの手は震えていた。

 

突然、玄関のインターホンが鳴った。
身構えるねこと、相手を伺うシェル。

ねこに奥に隠れさせて、ゆっくりと玄関に近づいた。

シェルが扉から様子を伺おうとすると、玄関先の主はこういった。

「シェル?俺だよ。キジ。いるなら開けてくれ」

「なんだ キジか・・・」

用心して扉を開けると、そこにはキジが立っていた。
キジが西大寺路を離れてここまで来るのも珍しいが、
キジはねこの姿を見るなり血相をかえて駆け込んでいった。

「おい、キジ。どうした?」

ねこがここにいることに驚いているようだった。

「ねこが戻ってるじゃないか」

「うん、昨日の夜戻ってきた」


そうか・・・とキジは一人で頷いた。

シェル自身、昨夜は何も聞けず仕舞だったこともあり
何も知らない。
この事態がどういうものか。

黙っていたキジが口を開く。

「警察局に行ったら、あんたが釈放されたと聞いた。
 さっきのテレビ、見たか?」

「ああ。ダリアのことだろ。妙に着飾って笑ってた」

ああも邪気の無い笑みを見せられると、本当にダリアなのか
疑う。今まで一度もあんな笑顔を見せたことの無い彼女だから。

「西大寺路が火事だった日、俺はダリアに会ったんだ。
 その時、妙なことを言っていた。それを俺は伝えに来たんだが・・・」

キジは言葉を濁した。

「なんだよ、言えよ。キジ」

キジはせかされて、うんと頷く。そして、こういったのだ。

「『きっとねこは助かるよ。そうシェルに伝えて』
 ダリアは、シェルに伝えてくれと行っていた 」

「きっと助かる・・・?」

確かに、助かっている。昨夜ずぶ濡れだったが無事帰ってきた。
あれだけ痕跡なくさらわれたわりには。

ねこが画面から目を離さず、ただ一言付け加えた。

「この人言ってた。私をさらったのも、シェルを警察に捕まえさせたのも
全てダリアを手に入れる為だって−」

「全て、ダリアを」

 

  そうだったのか。

 

  俺はとんだ思い違いをしていたのかもしれない。

 

  何かが起こると思っていた。
  俺が恐れるあの男が仕掛けたものだと思っていた。

  俺の周りで起きた出来事をパズルのように
  組み合わせてみると、そこにいたのはあの男ではなかったのだ。

  現れたのはこのフォーラムハウトという男。


 

  そのとき、ようやく俺は
  一連の事態の目的が、俺自身ではなかったことに気がついた。


  気づいた時は既に遅い。
  ダリアはこの男の元へ 行ってしまった

 

 

 

 

 

CHAPTER 5 END →  NEXT CHAPTER 6 フォーラムハウト part2  PREVIEW?

 

 

あとがき

フォーラムハウト 前編でした。
12話って長いスね。
今章シェルは寝てるか捕まってるかしかしてなかったけど
不運な目にあうあまり、WEB拍手からシェルへの応援のメッセージをたくさんいただきました。
ありがとうございますー。
次回は働け、シェル。

CH5で初出の梅水蒼子「梅」は、5555HIT記念に小夏さんがつけてくれた名前。
去年の12月頃に名前を頂いたわりに登場がすっごく遅くなりました。ごめんなさい〜。
梅という名はどうでしょう、と言ってくれたのでそこから梅水蒼子という本名をつけました。
小夏さん ありがとうございます。ようやく出せましたー。

フォーラムハウト家の人物や、シェルの本名については
次章あとがきで。

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