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<GALAXY  1Fホール>

 

「エ、俺入れないの?」

ダンの声がホールに響いた。

「アレックス、今日はヤバいんだよ。いくら常連の君でも無理だ。
 貸し切りの上、その主催がフォーラムハウトなんだ」

入り口に立つボーイはすまなさそうに言った。
後ろについてきたキジは、そのやり取りを聞いて「ほらみろ」といった表情をする。

「エェェー入れてヨ。俺入りたいのヨ」

ダンが奇声を発すると、ボーイは慌ててダンの口を閉じさせた。
エレベーター前に立っている巨人のように体躯のいい男が、こちらをじろじろ見ている。
ボーイは彼に聞こえないように、声のトーンを落とした。

「とにかく今日はダメだよ。ホラ、護衛の奴らが山ほどいるんだ」

ボーイに押し切られ、三人は入ってきた入り口から外に出た。
名残惜しそうにボーイを見るダンを、キジは後ろから軽くこづいた。

「だから言ったろ。今日は厳戒態勢だから、たとえ優良顧客でも入れないだろって」

「だってサ、俺はギャラクシーの常連なのにヨ。ヒドイヨヒドイヨ」

ダンはまだブツブツ文句を言っている。
シェルはキジと顔を見合わせてから、ダンの肩をぽんと叩く。

「俺とキジは給仕として潜りこめるし。
 あんた、適当になんとかしろよ」

「俺もそうすればヨカッタ…」

「おまえ、昨日聞いたときも別の手段なんか必要ないって言ってただろ」

キジはそう言い放すと、歩き出した。給仕用の入り口に向かっている。
ぽかんとした表情のダンを置いて、シェルもキジの後を追った。

 

 

 

<GALAXY 従業員通路>

”フォーラムハウト家がギャラクシーを貸し切って大宴会をやるらしい ”

ギミットの情報を元に、シェルとキジは中に入り込む準備をした。
ギャラクシーの常連となっているダン・ヴィ・ロウに頼んで
給仕のバイトとして中に入る手筈は整っている。

高層エレベーターにのり、ギャラクシーの従業員通路に入った。
ロッカーから制服を取りだして着替え、廊下に設置されていたモニターから会場内の様子を窺う。

きらびやかな格好をした人だかりの中心は、壇上にいるレオン・フォーラムハウト。
シェルはダリアを探した。

…いた。あの執事も一緒か。

奥の扉から、ダリアが出てきた。側にはレオンの執事、クラタもいる。
後ろにはさらに数人の男たちがいた。

「シェル、ダリアが出てきた」

「ああ」

「そばにハインツ・フォーラムハウトもいる」

ダリアのすぐ後ろには金髪の少年。ハインツもいた。
まわりにたくさんのボディガードが固めているのが一目瞭然でわかる。

「なんだか狙えるものなら狙ってみろ、ってカンジだな」

「確かに」

キジの言葉にうなづきながら、シェルは何か違和感を感じた。

  …?ちょっとまて、…ハインツは

「…キジ、どうしてハインツが狙われるんだ?」

シェルの唐突な問いに、キジは不思議そうな表情をした。

「え?今まで何度も狙われてるからだろ。
 あんたも天青劇場で見たんだろ、その現場」

「だから、何度もハインツを狙う意味は?
 ハインツを殺すメリットって何だ?」

「レオン・フォーラムハウトの大事な弟だから、じゃなかったっけ」

  そうか。そういうことだったんだ。

「俺、ちょっと執事に会ってくる」

そう言うとシェルは側に積み重ねられたワイングラスを取り、
トレーを持って会場内に入っていった。
客の空になったグラスを受け取るフリをして、ダリアに気づかれないように
執事の側まで近寄っていった。

 

 

<GALAXY 会場>

「じきレオン様の挨拶がある。
 俺は向こうに行くが、ダリアは常にハインツの側にいてくれ」

部下数人に周りを固めさせ、ハインツとダリアを残しクラタはその場を離れた。
時計を見て、進行表を確認する。

  レオンの挨拶は5分後、予定通り。

急に、背中を叩かれた。

「おい クラタ」

振り向くと、給仕の姿をしたあの男がいた。
眠り姫の保護者で、この前ギャラクシーで会った男。シェルだ。

「なんだ 貴様か。どうやって入った。
今日は相手をする暇は無い。消えろ」

クラタは眉間にシワをよせ、鬱陶しそうに答えた。
そのままシェルの脇を通り過ぎようとしたが、
シェルに肩を掴まれ止められる。

「あんたに忠告にきたんだよ」

「何を?」

「あんた、ハインツを守ることで本来の意味を忘れてるだろ。
どうしてハインツが狙われるのか。それはレオンの弟だからだ」

「そんなこと分かっている」

今更何を言っているのか、とクラタは苛立たしくなった。
それでもシェルは続けた。

「レオンの弟だから殺される、その意味はなんだ。
レオンに弟を失うダメージを与えたいからだろ。レオンに、だ。
目的はレオンなんだよ」

「…?」

シェルの言う意味がわからない。

「今日みたいな日にこそ、裏をかかれるんだ。犯人は今日こそレオンを狙ってくるぞ。
何度ものハインツへの襲撃はレオン暗殺の布石だ。
ハインツばかりが狙われると思わせた頃にレオンを殺そうと狙ってくる筈だ」

  なんだと…?

突如、会場内に拍手が上がった。
いつのまにかレオンが壇上の中央に立っている。
挨拶が始まったのだ。シェルは壇上を指さして、もう一度クラタに告げた。

「だから、守るべき相手はレオンなんだよ」

クラタはシェルの手をふりほどき、壇上まで急いだ。

 

 

<GALAXY 会場>

 

   ハインツを狙う人間が
   きっと、会場のどこかに潜んでいるはず

   

「ダリア、兄さんの挨拶が始まるよ」

ハインツに声をかけられても、ダリアは壇上に目を向けなかった。
周囲、会場内を見回し不審な動きをする人間がいないか探している。

ハインツはそんなダリアの様子を見て、狙われている本人でありながら
他人事のようにため息をはいた。

「無駄だよ。防ぎようが無い」

「…でも」

「諦めてるわけじゃないよ。ただ、こんな四方八方ががら空きな場所じゃ
無理だと思うんだ。ホントに僕を守るなら、鉄の箱にでもいれなくちゃ」

ハインツはレオンの挨拶をぼんやりと聞きながら、たまに拍手をおくったりした。
周りの護衛達の緊張感とは反対に、ゆったりと構えている。

「狙われるのがわかっていても、兄さんは僕をこういう場所に連れて行く。
 僕の顔を売る為にね」

「顔?」

ダリアが聞き返し、振り向いたとき異変が起きた。
ハインツの背後に座っていた護衛の男が、椅子からずるりと落ちる。
床に崩れ落ちたまま、がくがくと足を痙攣させていた。

 !!

周りは一斉に立ち上がり、その身でハインツを隠した。

ダリアも周りを見渡す。
場内のほとんどの人々がレオンに視線を向けている。
何度目かの拍手がわいたとき、会場奥のカーテンが揺れた。

「ハインツ!」

ダリアが叫んだと同時に、ハインツを守る護衛の一人が倒れた。
撃たれたのか、腕が真っ赤に染まっている。その異様な様子に、ようやく会場内の人々も気づき始めた。

 

<GALAXY 壇上付近>

クラタはハインツが狙われるその様子を見つつも、ステージの側から離れなかった。
さっきシェルに言われたことが気になっていた。
護衛が一人狙撃され、にわかに会場がざわめき始めた。

「クラタ!後ろだ!」

シェルの呼び声に、後ろを振り向く。
会場の奥の扉から、きらりと光る何かが見えた。

「レオン伏せろ!!」

クラタは反射的にそう叫びながら壇上によじ登った。
とっさの行動に、レオンは身動きできず
向かってくるクラタに勢いよくはじき飛ばされる。

クラタがレオンを突き飛ばした同じタイミングで、もう一度微かな銃声が聞こえた。
直後、自分の肩に衝撃が走る。視界がブレた。

撃たれたな、とすぐわかった。

「クラタ!」

レオンが自分の名を呼んでいる。
見上げると、レオンが見たこともない表情で自分を見ていた。

「…」

撃たれた方向に視線を向けると、
撃たれた自分を人々が心配そうに覗き込んでいるのがわかった。

「レオン様、こちらに」

「それより医者を呼べ」

レオンは他のボディガードに守られながらも、クラタの側から離れなかった。
クラタの撃たれた肩を、固く押さえている。

「レオン、は…犯人は」

クラタが倒れたまま撃たれた方向に目をやると、人垣の隙間に
ダリアの走り出す姿が見えた。奥の扉に向かっている。

  ダリアが追っているなら、俺も行かなければ…

無理矢理体を起こそうとしたが、レオンに止められた。

「クラタ、ダリアに任せよう」

「しかし」

「他の者に後を追わせる。きっと、ダリアは何かを掴んでくる」

「…分かりました」

担架に乗せられながら、もう一度ダリアの向かった方向を見ると
そこにはシェルが後を追う姿が見えた。

「できるなら、捕まえてこい」

クラタは小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

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