back next

05

new stage;

WELCOME TO GALAXY

 

 

<シェルのアパート>

 

「このカードを持ってきた人物はどんな容貌だった?若い女か?」

「だから女じゃない。男だった」

シェルの問いに、店長は面倒くさそうに答えた。

「店長、それだけじゃよくわからない。どんな男だった?」

「老齢の紳士だよ、心配しなくてもあれは良い人だ」

店長は自信満々にそう言うと、チケットに手を伸ばした。

「今夜行ってみるだろ?ここに」

そこで、と店長が言いかけたとき後ろから声がした。

「RFBコンプ(※)じゃねぇか。ほぉスゲェな、しかもギャラクシーのだ」

いつのまにか、帰ったと思ったギミットがいた。
キッチンの入り口に立ち、店長の持つカードを覗き込んでいる。

「勝手に入ってくるな」

「何言うよ、お嬢ちゃんに許可はもらってるぜ」

ギミットは椅子を引き、ねこの隣に座る。
マグカップを食卓に置き、煙草に火をつけた。

「ギミットさん、ギャラクシーって何?RFBコンプって?」

ギミットは「お嬢ちゃんは知らなくて当然だ」と煙を吐きながら言った。

「ギャラクシーってのは隣の都市にあるカジノの名前だ。ただのカジノじゃねぇ。
 コズミックと呼ばれる地域があって、そこは街全部がカジノみたいな場所だ。
 その中でも、特別な奴らしか入れないカジノがある。それがギャラクシー」

「ははぁVIP専門か。黒のおっさんなら鼻で笑いそうな場所だな」

シェルが答えると、ギミットは大げさに首を振った。

「確かに優良顧客しか入れない場所だ。だがな、ただの金持ち専用カジノじゃねぇんだよ。
 ギャラクシーにとって”優良”ってのは、豪快な賭けをする者のことを言うのさ
 真の賭け好きの集まる場所だぜ 」

「へぇ、あんた詳しいな」

褒めたつもりは無かったが、ギミットは得意げに続けた。

「そういう類は任せろ。あと、コンプってのは無料サービスのことだ。
食い物や酒がタダになるコンプもあるし、RFBならホテル代まで無料になる。
そのカードはギャラクシーのRFBコンプカードだ。マニアなら垂涎の代物だな」

シェルはギミットの説明を聞いてコンプの名を思い出した。

「ああ、俺知ってるぞ。Fコンプだと食事が無料なんだ」

服屋で働くまでは、天水地区のカジノでウェイターをしていた。
あの時、たしか”Fコンプ”カードを持つ客の食事代は無料になる決まりだった。

店長は突然のギミットの登場にも目もくれず、シェルに「行くのか」と問い直した。
ギミットのカップにコーヒーをつぎ足しながら、ねこも「行ってみたら?」とシェルに言う。

「そうだな、行ってみるか。・・・チケットは二枚か」

ねこを連れて行くのは論外だろう。何が起こるかわからない。
一人で行こうかと考えていると、店長は待ってましたとばかりに椅子から立ち上がった。

「はいはいはい!俺が行く!!何故なら一度行ってみたいからだ!」

店長の言葉に、ギミットまで立ち上がった。

「おい 俺が行ってやるよ、警官がいたほうが心強いだろっ」

  こいつら・・・

挙手して立ち上がる二人の男たちを冷めた目で見ながら、シェルは連れて行くのは
黒医師でも無理だろうと思った。この前、「新しいカジノが気になる」と発言していた気がする。
ギャンブルに目のくらまない、賢い付添人。
考えなくても思い浮かぶのはキジだった。

「あんたらには悪いけど、キジを連れてく」

「お、おい ちょっとまてっ」

シェルはキジの家に行くため、上着をはおり玄関に向かった。
店長とギミットがどたばた足音をたてシェルを追いかけてくる。

「俺が行く!そのためにシェルの家に来たんだぞ!!」

わめき散らす店長に耳を貸さず、シェルは歩き出した。

 

 

 

 

<海岸都市 巨大カジノ施設”COSMIC”>

 

隣の都市は、海沿いに細長く広がった場所柄「海岸都市」と呼ばれていた。
海沿いにはいくつものホテルが立ち並び、バカンスを楽しむ人たちが訪れるリゾート地としても有名である。

高速道路を使うと30分ほどで、海岸都市に到着した。
街に入ると所々に光っていたネオンライトが、車を進めるにつれ量を増していく。
豪華な電飾が”COSMIC”の入り口を示していた。
入口を車で通り抜けると、そこはもう昼間かと思われるほど明るかった。

「なんだ、もっとおごそかな場所かと思ってた。梅水地区みたいだ」

キジが車中から窓をのぞいた。

「コズミック自体は子連れでも来れる場所だからな。カジノだけじゃない。
 コンサート会場やら色々ある。こっちの都市じゃここが一番金の成る地区なんだよ」

店長が説明した。

「あんたら、ついてきてもチケットは渡さないよ」

シェルは運転席に座るギミットと、助手席の店長に向かって念を押すように言った。
店長は後部座席を振り返り、シェルを恨めしそうな目で見る。

「血も涙も無い男だな。おまえは。誰がそのタキシードを貸してやったと思ってるんだ!」

ぶつぶつ文句を言いつつも、コズミックを彩る電飾に目を奪われているようだった。
きょろきょろと街を見ては一人歓声をあげている。

「あれだな、中心にあるタワーは」

ギミットはハンドルをきって、コズミックの中で一番高層ビルに車を進めた。

 

  

 

 

<中央タワー メイン玄関>

 

GALAXYはコズミックの中心部にある背の高いビルの最上階にあるらしい。
ギミットはそこをタワーと呼び、ロータリーに車を進めた。

ボーイが車のドアを開け、にこやかに出迎える。
シェルがコンプカードを見せると、専用エレベータまで案内してくれた。
チケットの数と人数が違ったが、ボーイはそれをとがめる気配もなく
店長とギミットは堂々とボーイの後についていった。

「お客様、どうぞこちらです」

高層エレベーターで最上階まで上がる。
ようやくGALAXYの入り口にたどり着いた。

エレベーターを降りると、重厚な扉が一つ。
脇に立つドアマンがゆっくり扉を開ける。

 

そこは、青で埋め尽くされていた。

 

「すげぇ」

ギミットが感嘆の声をもらした。

群青の絨毯。濃紺のカーテン。青く塗られた天井。
遠くにみえるルーレット台も青い。目の前を通り過ぎたカクテルウェイトレスも青いドレスを着ていた。

絨毯も天井も、小さな穴が無数に開けられそこから小さな電球の灯りが漏れるようになっている。
小さなライトが所狭しと飾られ、カジノ全体がイルミネーションのようだった。

「その名の通り、天の川だ」

キジがつぶやく。シェルが振り向くと、キジは付け加えて説明する。

「GALAXYって天の川の意だろ。コズミックが宇宙。
 ここ、ホントに天の川みたいだなと思って」

「坊主、よく知ってるな。だからここは”天空の賭場”と呼ばれているんだ」

「確かに、すごいな」

4人が見とれている間に、青いドレスのウェイトレスが近寄ってきた。
案内係のようだった。奥の席へ促され、移動しようとした。そのとき。

「シェル!」

キジが小声でシェルを呼んだ。
振り向くと、キジはルーレット台の奥をじっと見ている。
シェルもキジの視線を追った。

視線の先には男がいた。

「・・・あいつは」

背の高い男が、ボーイに案内され歩いている。
あれは。

「・・・フォーラムハウトの執事!」

たしか、名はクラタだったはず。

「なんでここに?
手紙の主はフォーラムハウトなのか?」

緊張を帯びたキジの声。
店長とギミットは気づかずウェイトレスの後をついて行っている。
クラタの行き先を目で追ううちに、彼の後ろをついて歩く人影に気が付いた。

長い黒髪。その横顔。遠くからでもわかった。

「・・・ダリア」

ダリアがクラタと歩いている。
キジもそれに気が付いたようだ。

「手紙の主はダリアなのか?」

店長とギミットは放っておき、
シェルとキジは彼らの後を追った。

 

 

 

<GALAXY 通路>

 

 

クラタとダリアは、ボーイに連れられてカジノの奥にある部屋に入っていった。
スタッフ専用通路とドアには貼られている。シェルも後を追う。

見張りもいなかったので、静かに扉をあけ通路の中に入った。  
長い廊下といくつもの扉があった。

廊下奥の、曲がり角の向こうから誰かの声が聞こえた。
静かに歩みを進め、壁沿いにひっつきながら、気づかれないように廊下の奥をのぞいた。

クラタとボーイが何か話している。ダリアの姿は見えない。

「ダリアはどこだ?」

キジは小声でシェルに言ったが、聞こえたのだろうか。
クラタはボーイの話をさえぎって、こちらに向かってゆっくり歩いてきた。

「おい、そこの奴。出てこいよ」

  くそ、バレてる。・・・キジだけ逃がすか

シェルが迷うと、クラタは更に一歩近づいた。

「セイシェル・ラウフレアだろ。さっき入り口にいたな」

「・・・」

仕方なく、シェルは姿を見せた。
キジは隠れたまま、息を殺している。
クラタは気怠そうな表情でシェルを見つめた後、予想外なことを言った。

「俺に用でもあるのか?いや、違うな。ダリアか。
 彼女は応接部屋にいる。案内しよう」

素っ気なく言うと、クラタはどこかに向かってすたすたと歩いていった。

「え?おい、ちょっと待て」

クラタは歩みを止めない。
シェルが後を追うと、クラタは青色の飾りがかかった扉の前で足を止めた。

「なんのつもりなんだ」

シェルがもう一度問うと、クラタは面倒臭そうな表情を見せた。

「俺はレオンと違ってダリアに執着があるわけじゃない。
会いに来たなら、会って帰ればいいだろ。それだけだ」

「レオン・フォーラムハウトの指図か?」

「違う。レオンにとってアンタは最早用済みだ。
 今言っただろ。会うだけ会って、帰ればいいと。
 無理に彼女を連れ戻そうなら、俺が阻止する」

青の扉をがちゃりと開けて、クラタは有無を言わさぬ勢いでシェルを中へ押し込んだ。
扉の中も青色の絨毯がしかれ、窓際にダリアが立っていた。
窓の外を眺めている。

「ごゆっくり」

クラタは扉を閉め、その音でダリアがこちらを振り向いた。

「・・・シェル!?」

ダリアは驚きの表情でシェルを見ている。

 

 

警察局に拘留されて以来の再会だった。

 

 

 

 

※コンプ
掛け金に応じて受けられるサービス。賭けが豪快な程、コンプの質も上がる。

※RFBコンプ
RFB COMPLIMENTARY の略。ROOM、 FOOD、 BEVERAGE の頭文を取ったコンプ。
部屋代(ホテル)、食事代、飲物代が無料になるサービスを受けられるコンプのこと。
コンプサービスはカジノでは一般的なもの、らしいです。
私はカジノに行ったことが無いので厳密にはギミット刑事の言うレベルとは違うかもしれません(汗)


back next


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送