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06

 

 

 

 

 

−どうしてシェルがいるんだろう?

 

 

 

 

 

 

<GALAXY 応接室>

 


沈黙が響く。

 

 

突然のシェルの登場に、ダリアは困惑した表情を浮かべていた。
何を話していいのか、シェルも言葉が出てこない。

「…警察、出てきたの?」

ダリアが気まずそうに話した。

「ああ、少し前に出てこれた」

「西大寺路でシェルが警察に拘束された時、私は逃げてしまった。
 ずっと気になっていたの」 

逃げてごめんね、と付け足す。
謝られる立場でも無かったのでシェルは話題を変えた。

「俺のことより、ダリア。
 フォーラムハウトからこっちに帰って来れないのか」

呼びかけられ、ダリアは顔をあげた。

「ごめん、戻れない」

きっぱりと返される。
その返答は、先ほどの沈黙とうってかわって早かった。

「フォーラムハウトに脅されているのか?」

ダリアは首を振った。
一歩シェルに近づき、その瞳にシェルの顔が映った。

「天青劇場の事件を覚えている?
 あのとき篤志の偽者が暗殺しようとした相手がハインツ・フォーラムハウト。
 レオン・フォーラムハウトの弟なの」

篤志の顔が脳裏に浮かぶ。
あの事件はシェルにとっても苦い記憶だった。

「レオンはハインツを救った私の能力を買ってくれたようなものなの。
 私はハインツを守る、それと引き替えにレオンは篤志の情報をくれるのよ」

  −なんだって?

ダリアの話は、途中まではキジの読み通りだった。
だが。

「”篤志の情報”ってなんだ?レオンは何か知っているのか?」

「…篤志の居場所を知っているみたい」

  知っている?レオンが?

まさか、と思う。ただ、自分の過去の名も調べぬいてきたフォーラムハウトなら
篤志の居場所を掴んでいても、あり得ない話じゃない。

 

何か考え込んでいるシェルを見て、ダリアは不思議に思った。

  −どうしてシェルがここにいるんだろう?

ここは、クラタに連れられて初めて来た場所なのだ。
ずっとこちらの動きを追っていてくれたのだろうか?
考えながらも、ダリアはシェルの態度にどこか違和感を感じた。

  私はフォーラムハウトに来る前は、シェルとそんなに付き合いは無かった。

  ねこに会うときはシェルもいたけれど、彼も私に対して関心は無かったように思える。

シェルが血相を変えるのは、ねこに関してだけだ。
なのに、どうしてだろう。篤志の偽者が現れたとき、シェルは今と同じような態度だった。
どこか必死さすら感じるー…

その時、扉の向こうからクラタの声がした。

「ダリア、帰るぞ」

「わかった。今行く」

さっきシェルを連れてきておいて、まだ5分も経っていない。
もう少し話がしたかったが、クラタがのんびり待ってくれるとも思えなかった。

「とにかく、私は戻れない。
シェルも私に近づかないで。レオンが何するかわからない」

ダリアはそう言い残し、静かに部屋を出て行った。

 

 

 

<GALAXY ラウンジ>

シェルがカジノ内に戻ってくると、店長とギミットがラウンジのソファに座っていた。
目の前のテーブルに大量の料理を並べている。
勢いよくそれらを食べる姿を見て、少々げんなりした。

「おぅ、おまえ何処行ってた!俺達でメシを注文しておいたぞ」

「…どうも。店長、キジはどこにいる?」

店長はチキンをほおばりながら、「後ろ」と指さした。
振り向くと、キジが歩いてくるのが見えた。シェルに気がつき、駆け寄ってくる。

「シェル!無事だったか。さっき執事とダリアが帰っていったが
あんたの姿が見えなかったから」

「ああ、大丈夫。それに、ダリアと話せた」

「おまえら、立ってないで座れよ」

ギミットに促されソファに座る。
シェルはダリアから聞いた話をキジに伝えた。
大半はキジの読み通りだったので、説明に時間はかからなかった。

「ふぅん、篤志の情報を餌にダリアを釣ってるってわけか。
 だからダリアは戻ってこないんだな」

「おい、篤志って誰だよ」

店長はこちらの話に全く耳を貸さないが、ギミットは事細かに内容を聞いてきた。

「刑事さんには関係無い、ちょっと黙っててくれよ」

キジが答えると、ギミットは鼻で笑った。

「てめぇらの家族を護衛してんのは俺なんだよ
 俺にも聞く権利があろうってモンだ。それにー」

ギミットは間を開けて、続けた。

「フォーラムハウトには手を出すな  それが警察内の暗黙のルールだ」

「手を引けと言っているのか?」

「違うね、俺が言いたいのはー…」

ギミットがそう言いかけた時、突然店長が立ち上がった。

「おい、刑事!賭けに行こう。満腹だ!」

見ると、目の前の料理のほとんどが無くなっている。

「お、俺はこのガキ達と話が」

「シェルと会話なんぞいつでもできる!今はこっちだ!」

断る隙も与えず、ギミットの腕を掴みスロットマシンへ勢いよく向かっていった。

「アンタのとこの店長、面白いなー。
 突拍子もないところがダンに似て…」

「あぁ似てるよな」

返事をしながら、あの執事にダンのことを聞けば良かったと後悔した。
ダリアはダンが消えたことを知っているのだろうか。

   こっちの情報が少なすぎる
   フォーラムハウトに匹敵するには もっと情報が必要だ

ふぅ、とため息をつき顔を上げた。

「結局俺たちを呼び寄せたのは誰だったんだろうな。
ダリアは俺に驚いていたし、あの執事でも無さそう…キジ?」

返事がないので隣を見ると、キジはしかめ面をしている。

「キジ、どうしたんだよ」

シェルが顔を覗き込むと、しかめ面は怒りの表情に変化した。
そしてぼそりとつぶやく。

「…ちょっとでも…いやかなり、あいつを心配した俺がばかだった」

「何が?キジ?」

シェルはキジの視線を追った。
ギャラクシーの中央、青いルーレット台。

数人の派手な女たちが騒いでいる。
いつのまにか ルーレット台に人だかりができていた。歓声の声と拍手が上がる。
その中でぬきんでて背の高い男が万歳している。

常連なのだろうか、ディーラーと手をたたき合い周りの人々にも
愛想よく手を振っている。顔はここからだと見える角度ではなかった。

男は女たちに取り囲まれながら、ルーレット台を離れた。
こちらに向かってくる。
シェルはそのとき、ようやく男の顔を見ることができた。

肩まで伸びた金色の髪が、ギャラクシーの電飾で青みを帯びている。
その顔は、一度見れば忘れがたいほど整った美しい顔。

  まさか・・・あいつ

「ダンー・・・」

がっくりと肩を落とすキジと対照的に、サングラス無しのダン・ヴィ・ロウは
軽快なステップをふみながらこちらに近づいてきた。

「やァやァ諸君!!久しぶりじゃないカィ!」

唖然とする二人を目の前に、間抜けなほど陽気なダンの声が響く。
直後にキジの拳が飛んだのは、言うまでもない。

 

 

<GALAXY ラウンジ>

 

「イテテ ひどいなキジ君。親友の感動すべき再会に」

「ふざけんな ハゲ!この馬鹿野郎!」

「今はハゲじゃないヨ、かつらダヨー」

その一言に、キジはダンの頬をつねり引っ張り上げた。
整った顔がみるみるうちに崩れていく。シェルは止める気もなく、それを見ていた。

「アダダダッキジ君、痛い、痛いヨ」

キジの手を振り払い、ダンはシェルの後ろに隠れる。
こそこそとシェルに助けを求めた。

「なんだかキジ君が怖いヨー、助けてシェル」

「・・・あんたもっとマシな登場の仕方できないのか」

まさかダンがカジノにいるとは思わない。
人一倍心配していたキジにとって、カジノで遊ぶダンの登場に
怒りをおぼえるのは無理も無いだろう。

ダンは「むぅー」と奇声を発しながら、つねられた頬をさすった。

「これでも精一杯マシなつもりだヨ。
 さっきまでフォーラムハウトの人間がいたデショ。俺隠れてたのヨ」

「隠れてた?」

「アレックスーぅ、お友達ぃ?」

シェルが聞き返すのと同じタイミングで、
ダンの周りにいた女達の一人が割ってはってきた。
ダンは女達を振り返ると、にっこり微笑む。

「そうダヨ、残念だけどまた今度ネ」

そう言いながら、ダンは周りの女に手を振った。
残念そうな声をあげて女たちは向こう側へ去っていく。

「サテサテ、再会を祝してメシでも食いに行こう。
 階下にはウマイ店がたくさんあるんだヨ 」

「こら、待てよダン!」

ダンはギャラクシーの入り口へ歩き出した。
キジが困惑しながらついていく。

奥を見ると店長とギミットがスロットの前で騒いでいる。
何か当てたのか、周りの客まで引き込んで喜び合っている。

  あのおっさんらは放っておいていいかな

シェルもダンの後についていった。

 

 

 

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