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08

 

 

 

 

 

 

私は悪魔の仕事をしている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<フォーラムハウト邸 レオンの書斎>

 

午後になって、クラタがいつも通りレオンの書斎に入ると
昨日と同じくレオンは書斎にいた。机に向かって何か書いている。
クラタが入ってくると手を止めた。

「昨日はどこをフラついていたんだ?」

「何のことでしょうか、レオン様」

わざとらしく返事をすると、レオンは楽しげな表情を浮かべた。

「今朝警備の者に聞いたら、昨夜クラタが女と車で出て行ったと話していたぞ」

  知っているなら聞くな、と思う。

「ダリアと会場の下見に行きました」

クラタはそう言いながら、手に持っていたギャラクシーの案内書を差し出した。
レオンはそれを手に取り、怪訝な表情をする。

「なんの会場だ。こういう類は嫌いだと、昨日言ったじゃないか」

「好き嫌いで場所を選ぶ余裕はありません。
この前の天青劇場は襲撃を受けたから場所を変えると言ってたでしょう。
適当な場所だと思ったから、こうして資料を揃えた次第です」

「来月の懇親会を、ギャラクシーでやるつもりか?」

「一般客が入りにくい場所の上、コズミック中心のタワー最上階に位置します。
 万が一ハインツが狙われても、その後犯人を捕らえやすい」

レオンは少し興味が沸いたらしく、黙って案内図をめくった。

   こいつの気に入りそうな場所だよ ここは

レオンがギャラクシーの案内図をめくる様子を見ながら
クラタは自分でもいい場所を見つけたなと思う。

昨夜はあてつけのつもりで顔を出した場所だったが、
立地条件や場所の高級感は天青劇場と変わらない程度だった。

侵入ルートは限られる上、今回はダリアがいる。
ダリアならハインツを狙う人間を捕らえられるかもしれないと、クラタは何となく期待していた。

一通り目を通した後に、レオンはようやく口を開いた。

「私は隣都市まで関係を持ちたくないんだよ。
 ふん、まぁいいか。おびき寄せるには好都合かもしれん」

「手配しますか」

レオンは少し考え込んでいる。
クラタは返事も待たず広げた資料をたたみ始める。
どんな判断でも、十二分くらい考えて結論を出すレオンのペースを
短気な自分が耐えられるわけもない。8年仕えてえた法則の一つだった。

「そこで異変は?」

「とくにありません」

クラタが即答すると、レオンは怪訝な表情をした。

「怪しいな。返答が早いところが怪しい」

  …蛇め、勘が良いな

昨日の出来事をレオンに言うつもりは無かったのでシラを切り通すと
レオンは興味を失せたらしく手元のパンフレットに目をうつした。

「とりあえず君はギャラクシーの構造を把握して警備を万全に計画しろ。
 それとハインツの警護にはダリアと、ソニアにも応援を頼もう。
 彼女達はどこかな、呼んでくれ」

「あの凶暴な女はどこにいるか知りません。…ダリアならおそらく庭かと」

クラタは書斎をでて、中庭に向かった。

 

 

<廊下>

 

クラタの予想通り、ダリアは中庭にいた。
廊下から中庭を見ると、案の定噴水前のベンチに座っている。
庭まで降りていくのが面倒だったので、廊下の窓を開けダリアを呼んだ。

「レオンが呼んでる、来てくれ」

ダリアは声の方向を見上げる。日差しが強いのか、まぶしそうに目を細めている。
立ち上がりこっちに向かってくるようだったのでクラタはそのまま廊下で待っていた。

すぐに階下から階段を上る足音が聞こえたので、ダリアだと思った。

  ギャラクシーの館内案内図と、招待客リストと…

「クラタ」

揃える資料を考えていたので、足音の主を確認しなかった。
呼ばれて2,3秒してから、ダリアの声とは違うと気づいた。
振り向くと 小さな少女がそこに立っていた。
少女の顔を見るなり、クラタは顔をしかめた。

「…何の用だ」

「あたしの服、返してよ」

 

 

 

<中庭>

 

赤紫、白、黄色にオレンジ。
噴水のベンチに座ると、この庭に咲く色鮮やかな花たちがよく見えた。
石畳と芝生で区切られた場所それぞれに、様々な種類の花が育てられていた。

石畳と同化したような、鈍い色合いの青い花も
噴水の周りにバランスよく植えられた花々も、どれだけ見ても飽きなかった。

噴水の静かな水しぶきの音と、日差し。
ダリアはこの庭でぼんやり過ごす昼間が、なんとも言えず好きだった。

「ダリア!」

静寂を打ち壊す声。
声のする方向を見上げると、廊下の窓からクラタが自分を呼んでいた。
レオンが呼んでいるから来いと言っている。

そう言ったままクラタが廊下で待ってる様子だったので、庭から離れ中に入った。
階段を上り、廊下に出ると話し声が聞こえた。

クラタと、女の子がいる。

この屋敷に来てからはじめて見る少女で、メイド服とは違う青いワンピースを着ていた。
ねこと同じくらいの年齢といった雰囲気だった。
薄茶色の長い髪と背丈の小ささが、どことなく人形のようだった。

  誰?

近寄っていいものかと思い、その場で立ち止まった。
クラタはダリアに気づいているようだったが、そのまま少女と話している。

  昨日言っていた名前の人だろうか。シヴィラとかいう…

『シヴィラはそいつの女で、今はレオンの女』

クラタの言葉を思い出した。
話し込んでいる様子だったので、先に自分だけ書斎に向かおうかと思った途端
パシッと、何かを叩く音がした。

振り向くと、クラタが少女の頬をひっぱたいている。
少女は少しよろめき、クラタを睨み付けた。

  …え?

クラタも少女を見下ろしながら、無言でにじり寄っていく。
少女は後ずさりながらも、クラタを睨み視線はそらさなかった。

「クラタ!」

遠巻きに見ていたダリアは、見かねて駆け寄った。
少女を背に回し、クラタから守るようにして二人の間に割り込んだ。

「何やってるかわかってるの?この子は何もしてないじゃない」

ダリアの言葉にまるで耳を貸さず、冷ややかな表情を浮かべている。

「悪いな、ダリア。俺はこいつだけは心底嫌いなんだよ、レオン以上にな」

「どんな理由があっても一方的に殴るのは駄目。
 あなたはそういう常識はある人だと思ってた」

「・・・俺を甘く見るな」

クラタはもう一度少女に視線をやり、そのまま廊下を歩いて行ってしまった。

「・・・なんなの あいつ」

今まで見たことが無い顔、行動。
口は悪い上奇行癖があるが、まともな人間だと思っていた分
今の行動には驚く。一回りも小さな少女を、何のためらいも無く叩く神経がわからない。

「あの」

背中から少女の声がした。
クラタに気をとられ、少女の存在を忘れていた。
ダリアは後ろをふりむいて、少女を見る。

少女は不思議な表情でダリアを見ていた。

「大丈夫?頬、冷やそうか」

少女の頬は赤くなっている。
容赦なく叩かれたことを物語っていた。

「あなた誰?」

少女に尋ねられ、一応設定されてる身分を答えた。

「私はダリア。レオンに雇われている、ハインツの家庭教師よ」

答えたものの、少女は信じていないようだった。

「レオンの新しい愛人?」

「違うわよ、みんなそう思ってるみたいだけど、違うの。
ハインツの家庭教師って設定も、まぁ嘘なんだけど」

疑り深く、少女は問う。

「本当?」

「あなたに嘘を言って得になる?」

「…わからない。でも、助けてくれてありがとう」

そう言って微笑む少女は、可愛らしかった。

この屋敷に住んでいるのだろうか。
手荷物も持たず、靴も外履きじゃ無いようなので
来客には見えなかった。

「あなたもここに住んでるの?」

ダリアが少女に尋ねかけた時、レオンの声がした。

「やぁ、これは珍しい組み合わせだな。ダリアにロゼか」

廊下の奥からレオンが歩いてくる。

「ロゼ?」

ロゼと呼ばれた少女は、レオンに気がついた途端微笑みが消えた。
そしてレオンの前に歩み寄っていった。

「クラタが私の服を盗んだ。赤いワンピース」

ロゼが小さな声で言う言葉を、レオンは彼女の背丈に合わせ
少しかがみこんで聞いている。

その様子を見ていたダリアは、ふと何か違和感を持った。

「クラタが?奴め、女装癖でもあるのかな。
私から言っておくよ。おいでロゼ、話があるんだ」

そう言って、レオンはロゼの肩に手をかけたが
すぐさまロゼはそれを払いのけた。

「触らないで」

「今日は不機嫌だね。君はいつも不機嫌だ」

そう言いながらも、レオンの言葉はどこか優しかった。

「ダリア、呼んでおいてすまない。少しロゼを借りるよ」

「え、ええ」

二人の会話を聞いて、違和感の正体に気がつく。
レオンのロゼへの態度が異様に優しい。
溺愛する弟ハインツに接する態度と似ていることにダリアは不思議に思った 。

クラタには叩かれ、レオンには歓迎されているように見える。
この少女は何なのだろう。
レオンとロゼの後ろ姿を見送りながら、彼女の名が「シヴィラ」じゃなかったことに気がついた。

 

 

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