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Raining 02

 

<司令官室>

曹長に呼ばれ、そのまま司令官室へついていった。
司令官室、というと聞こえはいいが僕に言わせるとただのオヤジの集まり部屋だ。

ドアを開けると案の定煙たい部屋には、TVにかじりついた白髪交じりの将校が
ソファーに座っていた。スワノ中尉だ。

「今日のヤ軍は最低だ。あんなピッチャー、やめちまえ」

ぼやきながらTVを消すと、僕に座るよう手招きした。

「フジイ軍曹は研究員と知り合いなのか。さっき話していたようだが」

「はい 同じ大学でした」

「そうか。ちょうどいいかもしれんな」

中尉はそう言って、「君の班を遺跡現場警備に任命する」と決めてしまった。

「学者共は俺達を毛嫌いするからな。知り合いがいれば
折り合いもうまくいく。いい役だろ、フジイ」

「・・・・・・」

正直いって、嬉しくない。はっきり言って貧乏クジだ。
炎天下の中、土掘りの警備だと?

 

 

<発掘現場>

司令官室を出て、僕の班の兵士が集まるテントへ戻った。

「我がチームのレイン軍曹殿は最悪だ。ロクな仕事をとってこない」

シド上等兵は、「現場担当になった」と僕が言った途端文句を言い出した。
彼は同じ年に軍隊に入り、僕が少し早く軍曹に昇格しても
一向に態度を変えずいつまで友達でいてくれる。・・・その分不満もダイレクトだが。

部下の兵士達も同じように文句を言いまくっていたが、
タキタがいるとわかるなり上機嫌になりやがった。
ゲンキンなものだ。

 

考古学の発掘なんて僕は詳しく知らなかったので
実際行ってみておどろいた。
そこは洞窟の中だった。
壁にブラシをかけ、土まみれになった人がもくもくと作業をしている。


「我々が調査しているものは、ほぼ原始に近い時代の戦争画ですな」

発掘担当主任の博士(名前は忘れてしまった)と挨拶がてら、ここの発掘について質問してみた。
およそ無粋な軍人に歴史はわかるまいと思われたらしく、
”原始時代の争いの壁画”を検証しているとしか教えてくれなかった。

僕は部下を適当に配置させ、自分もどこか適当な日陰で休もうとウロウロしていたらタキタに会った。

「フジイ君!ちょうどよかった。中、見ていかない?」

Tシャツとワークパンツをはいて、他の学者達と同じように土まみれの姿のタキタは
なんだか可愛らしかった。この子は、大学時代もこうだった。

「戦争の絵なんだって?」

洞窟に一歩足を踏み入れると、少し涼しかった。
足下気をつけてね、とタキタに言われた。
足元はしめっている。
どこからか水が流れているんだろうか。

「人類史上最古の時代のモノと言われてるの」

タキタが指さすそこには、岩にぼんやりと映る絵があった。
ほんの少し、赤い色と濃い土色で描かれた絵だ。
単純な線と円で描かれた、記号のような、人類の絵。

円と円がぶつかり、赤く塗られた部分があちこちにあった。
確かに、戦いの絵かもしれない。

「この時代はね、あまり遺跡自体が発見されていないから。
この絵は時代を知るとても貴重なものなんだ」

 

僕には何がすごいのかよくわからなかった。


いつの時代も、人類は戦っている。ただそれだけだと思った。

 


そして現代の今も、東西の戦いは続いている。

 

 

 

「失礼します フジイ軍曹。交代の時間はどのように・・・」

シドが僕を呼びにきた。けれど、タキタといる僕を見るなり僕の肩につかみかかる。

「おいレイン、やっぱりあの子はおまえの彼女なのか」

「違うって」

「元同期として教えてやる。俺らB班は皆あの子をねらってるからな」

「・・・ウルサイ。上官に言うセリフか!」

わめくシドの首を捕まえ、現場を去ることにした。
タキタは僕らの会話は聞こえなかったらしい。一人、また壁画の土払い作業を
続けている。

 

発掘隊はずっと壁画を探し続け、僕らはそれを警備する。
そんな日がずっと続いた。

 

 

<一週間後>

フランシスの遺跡に来て一週間、とくに何も問題無く
発掘調査は進んでいる。
調査隊はもともと、隣国の空爆を恐れて僕ら軍隊を要請していたが
ここは全く平和だった。敵機の音も、警報も鳴らない。

 

今日は非番だった。空は相変わらず鬱陶しいくらいの
晴天だった。

キャンプの外にでて、ひとり歩いてるとランニングしているタキタを見かける。
僕に気がつき、彼女が歩みよってきた。

「フジイ君。どこいくの?軍服じゃないね」

「今日非番なんだ。暇だから山に行く。」

私もお休みなんだ、とタキタが言うので一緒に行くかと誘ってみた。
誘ってから、シマッタ、と思う。

「タキタといるとシドににらまれる」

冗談ぽく言ってみる。

「シド?あの金髪の面白い人?
いつも発掘中に軍隊のおもしろい話してくれるよ」

タキタによれば、”フジイ君のマル秘ネタとか”をシドは話しているらしい。
あの野郎・・・。帰ったら叩きのめしてやる。

 

「タキタさん?」

歩いていると、向こうから研究所の男が声をかけてきた。
生真面目そうな外見。この暑いのに、しっかり白衣を着ている。

「トウノさん」

「今日休みかい?」

トウノ、と呼ばれた男はタキタの先輩らしい。
彼は僕をじろりと一瞥した。

「・・・国営軍のフジイ・レインです」

「僕はトウノ・セムルだ。タキタさんと同じ研究室だ。よろしく。」

そう言うと、すぐに視線をタキタに戻し、発掘の話をしだした。
僕はどうでもいいらしい。

彼らの話が終わるのを、なんとなく待っていた。

「タキタさん、あれ見つかった?」

そんな会話が聞こえた。

 

 

 

「あれ、って何?」

トウノが去ったあと、僕は山の風景を見ながら
タキタに聞いてみた。


「ああ、あのね。今発掘してる時代の壁画は戦いの絵ばかりなの。
私とトウノさんは「戦い」以外の絵が無いか・・・って探してる。」

戦い、以外の絵。

「たとえば「祈り」とか。宗教儀礼の絵ね。
 ・・・国は戦意向上の為に戦争絵が欲しいみたいだけど」

タキタの最後の言葉、に顔を上げた。

「知っていたのか」

僕ら軍隊がなぜ考古学調査に赴くのか。
最初から、調査隊の保護、は名目上の目的だと聞かされていた。
度重なる隣国との戦争で国民は疲れ切っている。
そんな時に、文化的に明るいニュースは大きな効果となる。

ー古代からこの国は勇猛な戦う民族だった、と示す絵があれば。

 

それが軍の狙いなのだ。浅はかな、刹那的な狙い。

タキタはそれを知っていた。
研究所の人間も、そうと知ってのことなのだろうか。

「俺は絵が発見されたからって、そんな効果は無いと思う。
でもまた戦いになる前に、せめて明るいニュースが欲しいってのがホンネだろうと思う」

泥沼の現状に 打開策は見つからない。


「私は10年前の戦争で家族を亡くしたから。
だから見つけるのは「戦い」よりも「祈り」の壁画がいい」

「・・・そうだな」

タキタの言葉にうなずき、また空を見上げた。

こんなにも美しい景色の下で、また血を流すのなら。

僕も祈りの絵が見たい、守るなら、そんな絵がいいと思った。

 


 

 

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