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Raining 04

 

 

 

   夜半まで降り続いていた雨は姿を消し
   起きた時には美しい朝焼けが空を彩っていた。

   まるで 世界は美しいと

   そう言っているかのような明け方だった。

   そして悲劇は起こる。

   容赦無いくらい唐突に。


 

 

 

 

<研究所 退却当日 AM7:00>

朝、研究所の食堂で僕とシドで食事をしているとトウノがやってきた。

「軍曹、タキタさん知らない?朝から姿が無いんだ」

所内にいないなら、発掘現場じゃないかと思い、
洞窟用につないである電話へコールしてみた。

 

4回ほど呼び出し音がなり、タキタが出る。

『・・・・もしもし、タキタです!』

「タキタ?洞窟内にいるのか?」

『うん そうだよ。やっぱり名残惜しくて朝から散歩してるの
 もう帰るね』

「迎えにいこうか?」

大丈夫よ、とタキタは言い、電話は切れた。
受話器を置く。窓から洞窟の方角を眺めた。

いつもと変わらない風景だった。

 

 

 

 

<発掘現場・洞窟内>

タキタ・リーファは今朝、いつもより早く目が覚めた。
もう少し眠っていようかと思ったが、空が晴れていたので
起きることにした。

 そうだ、もう一度壁画を見にいこう。

研究所内もまだほとんどの人が眠っていて、静かな空気の中
ひとり、洞窟へ歩いていった。

昨日の雨で、地面は濡れたまま、洞窟内もいつも以上にひんやりとしていた。

  結局、戦いの壁画しか見つけられなかったな

リーファと先輩のトウノだけが「戦い」以外の壁画は無いかと密かに
探していたのだが、 結局この発掘中に見つけることは叶わなかった。
残念だが、仕方がない。もう いくつもの「仕方が無い」ことに
出会ってきたかわからないが−・・・

「昨日みんなに言ったくせに」

ポツリ、つぶやく。

何年か経って、また掘り返せばいいのだ。そう、自分が言った。
そのためには生き抜かなくては、とも。

戻らなくちゃ、そう思い入り口へ足を向けたとき
洞窟内に取り付けられた電話が鳴った。

「・・・・もしもし、タキタです!」

もう出発時間になってしまったのだろうか、あせりながら電話を取ると
受話器の声はフジイ軍曹だった。


「もう帰るね」

そう言いながら、ふと、洞窟内に青く光るものを見つけた。
作業道具をおいていた棚があった辺りだろうか。
昨日の内に用具は全て片づけてしまったので、今まで見えない部分だったかもしれない。
小さくくぼんだ場所に、何か、光っている。

『迎えにいこうか?』

「大丈夫よ」

答えながらも、リーファの目線はその青い光に釘付けになっていた。
電話を切ると、そっとそこへ近づいていく。

 

  ・・・なんだろう、あれは・・・

 

側によると岩と岩のヒビの間に、透明な青い石が一つ、埋まっている。
小石ほどの小さな青い石だった。

 

  ガラス?鉱物?

 

どうして今まで気付かなかったんだろう?そう思いながら
手を伸ばした時。


何かが聞こえてきた。

「?」

注意して耳を傾けると、それは飛行機の音のようだった。
微かな轟音が、聞こえる。
なにか唸るような低音の響きが、 徐々に大きくなっている。

 

「飛行機・・・?」

 

軍隊の飛行機が迎えに来たのだろうか、いや、
敵国の戦闘機かもしれない。そんな考えが頭に浮かび、
すぐに研究所に戻ろうと歩き出した、一瞬。

 


突如大きな爆音が響き、それに伴い地面がグラグラと揺れた。

「!!」

その揺れの大きさに、思わずリーファは倒れ込んだ。
痛い、そう思った瞬間、頭上から岩が崩れ落ちてきた光景だけが視界に入る。

そこで、意識は途切れた。

 

何も考える間も無く。

 

 

 

<研究所 AM7:20>

 

「今日でこのクソ暑い場所ともオサラバだわなぁ レイン」

「そうだなー」

他愛ない会話をしながら、シドと僕が食堂を出てくると廊下の奥から血相を変えて
兵士が走ってきた。

「どうした?」

僕の声に一瞬立ち止まり、もどかしそうな手振りで、「敵襲」と合図すると
すぐさま司令官室へと走っていってしまった。

「敵襲・・・だと!?」

その時、所内一斉に警報のサイレンが鳴る。
慌てる研究所員をおさえ、兵士は速やかに退却の準備を始めた。

開戦が早まった

そうとしか思えなかった。
遠くから嫌な音が聞こえてくる。敵機の来襲を知らせる音が。

「全員退却!!すぐに動け」

所内にサイレンを鳴らせて、退却路を確保した。
所内から外へ出ると、もう敵機の音が遠く聞こえてきた。

「開戦はまだ先との情報だぞ・・・!!」

シドがそう叫ぶが、その敵機の前に僕たちは何もできなかった。
小さな戦車に対向できる代物で無いくらい大きな敵艦機だった。

音が近づく感覚は想像以上に短く僕らはとりあえず身を隠した。
タキタのことだけが気がかりだった。

 

 ゴオォォォォ!!

 

大きな轟音の後、一瞬静かになったと思った即後、
フランシス・ヴィクター遺跡は猛撃の嵐を受けた。

「リーファッ!!」

煙と銃声の中、叫んでみる。返事は無い。

やはりあの洞窟か、そう思った瞬間、僕は走り出した。

リーファを助けなくては。

 

「待て レイン!!戻れッ」

 

遠くでシドの声がする。
一度だけ振り向き、先に行け、と手で合図した。

 

「おい、レイン!!逃亡罪になりかねんぞ!!」

軍隊の兵士、研究所の人間もろとも退却の車に乗り込み、
今にもこの場を離れようとしていたところだった。

「誰か残っているのか」

背中で声がする。スワノ中尉だった。

「フジイ軍曹が・・・洞窟内の研究員の救出に向かいました」

かろうじて軽傷ですんだ研究員達は、ジープに乗せられたまま
タキタのいないことに気付いたらしい。

「リーファちゃんはどうした。まさか・・・」

混乱と死と隣り合わせにあるこの状況では誰も人の為に動くことができない。

 

「女か」

スワノ中尉は一本、煙草を吸い出した。シドにもすすめる。

「は・・・はい そうであります 研究所の女性です」

「行かせてやれ」

スワノ中尉はそう、言った。
シドは中尉を振り返る。

「好きな女の側で死ねるなら本望だろうよ」

「中尉・・・」

シドもたまらず喫煙する。


  レイン・・・リーファ・・・生きてろよ!!
  攻撃が引いたら迎えにくるからな!!


キャンプはレインとリーファを残し、全員退却した。

 

 

<倒壊現場>

薄暗いやみの中、痛くて、痛くて目がさめた。
目をあけても真っ暗で、廻りの状況がわからない。
左手を伸ばしてみる。肘くらいの幅の距離は、隙間があった。
そこに、先ほどまで手に持っていた懐中電灯が転がっているのがわかった。

  よかった。ライトがあった。

すがるように灯りをつけると、そこに見たものは・・・

 

 「?」

 

 手を前にのばしてみる。

 ゴツリ

 すぐ拳がぶつかった。岩だろうか。

 

 右手は、動かせなかった。何かに踏まれているように
 右手首はビクともしなかった。

 

 

 そうだ、立たなきゃ。

 

 

 立とう、としたがそれが傷みの根源だった。

 体中に激痛が走る。

 

 足?

 

 私の足は・・・

 

目の前、顔面まで迫ってきていた大きな岩は、リーファの右手を踏み潰していた。
それだけでなく、リーファの太股から下全て、岩に押しつぶされている。

目の前には自分を潰す岩。

左にはかすかな空間。

そして頭上は・・・

 

 

3,4m程上に、細く光りが差す場所があった。岩と岩の間をぬって、小さな光が漏れ出ている。

人の気配は一切、しない。

 

 

リーファは、ガタガタと震えてきた。

「わ・・・わたしは こんなところで 独りで死ぬの」

左手で目前の岩をたたく。

ビクともしないが、たたき続けた。

 

 ドン

 

 ドンドン

 

 手が痛くなるばかりでだんだん涙あふれながらたたき続けた。

 

 

いやだいやだいやだ!!

私はこんなところで・・・!!

1人で死んでしまうの??

 

レイン!!

 

絶望が、彼女を包む。

 

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