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06

 

 

予告無く、世界は一瞬で反転する。
それは、悪いことが良くなったり、
またその反対の場合だって、あるんだ。

 

 

<海水浴場 ビーチ/小屋 AM11:00>

小屋は、鍵もかかっていなかった。
扉をあけると、ねこと修二が伏せっていた。
あの花の匂いが、小屋を充満している。

「・・・ねこッ」

シェルはねこにかけよった。ねこは動かない。
思わず彼女の頬を叩いた。

「ねこ、しっかりしろ 目を開けるんだ」

鼓動を確認する。微かに、不規則ながらも心臓はうごいていた。
生きていることを安心し、黒医師が作った解毒薬を無理矢理ねこの口へ押し込む。


数分して微かながら、ねこは顔をしかめて意識をとりもどした。

「シェ・・・ル・・・」

息も切れ切れに名前を呼ぶ彼女を抱きかかえ、急いで車に戻ろうとする。それを「待って」と苦しそうに止めるねこ。
修二を助けて、と指さした。

「修二、修二っ」

タキタ氏が修二の肩をゆする。修二は声にならない声で、必死に言葉を発した。

「と、・・うさん、 いつも・・来るのが・・遅いんだ・・・」

「修二、話すな。病院に行くぞ、父さんが悪かった。おまえの苦しみを理解できず--」

タキタ氏が修二を背負おうとすると、ねこが止めた。

「おじいちゃん、待って。違うの、そうじゃないの」

彼女の目には涙がたまっている。

「ねこ?」

「彼はおじいちゃんに言いたかったの お母さんが死んだときのことを」

「妻が死んだとき・・・?」

タキタ氏が修二の顔をのぞき込むと、修二は「父さんが来れば、話そうと思ってた」と言い少しづつ、
話し出した。 さっき、ねこに話したことを。

 

 

 

 

 

弟は母の死を偶然見てしまったのではない。
母は、わざと弟の前で自殺した。死ぬ前に、毒のような言葉を吐いて。
それはじわじわと父を追いつめる為の毒の言葉ー

『おかあさんはね、今から粘土になるの。
マサくんは粘土とくいでしょう?おかあさんをもとの形にもどしてね。
マサくんがいい子なら、きっとおかあさんは人間にもどるからね。

もし、粘土のままなら マサ君はいけない子よ。
マサ君のせいで、おかあさんは粘土のままなのよ 』

弟は、散らばった母のかけらを、もとにもどそうとした。
二度と戻らないとは知らずに。


そして、母は死に、弟の心も毒される。最期の言葉が、弟を蝕む。

 

 

 

「マサは混乱した状態から、徐々に治っていった。父さんだって、
その少女のもとに通うことで、救われたような気になってた。
じゃあ僕はどうしたらいいんだ?
どうして僕だけあの母の本当の姿を知る?」

「どうして父さんにそのことを言わなかったッ なぜ一人で抱え込むんだ」

「僕だけ言わなければ、母さんはきれいなままの母さんでいられたんだ。
弟の心の傷も広げたくなかった。あんな女が母親だなんて、思いたくなかった。
でももう終わりだ。
僕も母さんと同じだ。真実を話すきっかけに、
この少女の命まで奪う」

タキタ氏と修二のやりとりを黙って聞いてたシェルだったが、その言葉が引き金になった。
ねこを抱えたまま、片手で瀕死の修二の胸ぐらを掴む。タキタ氏は驚いてシェルを止めようとしたが、
その手をゆるめなかった。

「おまえは死なない。
ねこだって死なない。
どんな親だっていいだろうがっ おまえ自身に何の関係があるんだよ。おまえはおまえだ!
そしておまえは莫迦だ!!」

 

変な啖呵をきって、シェルは予備に持ってた解毒薬をタキタ氏に渡した。

「あとはあんたら二人の問題だろ。勝手にしろ・・・」

そんな昔話の為に、ねこの命が危険にさらされたと思うと、悔しかった。
目の前の過去を振り切れてない人間が、自分に重なって嫌だった。


シェルは、小屋を出てもときた道へ戻りだした。


 

 

 

 

<黒十字病院 / 病室  PM6:30>

「おまえ、タキタさん達をほったらかして帰ってきたんだってな」

ねこの病室に黒医師が入ってきた。
状態は悪く無い。大丈夫だろうと言われ、一安心したトニーは病室のソファで眠ってしまっている。
シェルは、ねこのそばを離れなかった。

「ねこより毒を吸ってる時間も少ないだろ、大丈夫だろうが」

「そりゃまぁそうだろうが・・・」

修二のほうは、国営病院の大先生に看てもらい大丈夫らしい、と医師は言っていた。

「あんな親子、サイテーだ。」

「そう言うな、母親の性根を知ってしまって、ずっとショックだったんだろうよ。
人は他人にとって些細なことでも、深く傷つくんだよ」

当たり前のことを医師に言われて、反論できなくなってしまったシェルはだまりこくった。
ずっと黙ってたねこは点滴を外していいか、なんて言い出した。

 

「シェル、家族を無くしたの?」

 

急に、思いついたように、ねこは聞いてきた。
あまりにも突然だったので、表情も作れなかった。

「家族を無くしたり、誰かを無くしたりしたから、
修二に怒ったの?修二が家族のことであんな事態を起こしてしまったから?」


黒医師も黙る。ねこはまっすぐシェルを見た。

 

「・・・無くしたんじゃない、壊したんだ」

語ろうなんて思ってなかった。誰にも話したくなかった。

「多くは言えない。でも、・・・俺は・・・」

言葉を紡ぐのに、どれくらい時間がかかっただろう。
言わなければ、それを無かったことにできるのに −修二と同じ考えがよぎった。
でも。

「俺は、ある家族を壊した。居候のフリをして
夫婦を殺して、その子供達も傷つけた。女が見てるまえで、男を殺した。
笑いながら・・

なのに、 俺は断罪されなかった。

あんな酷いことをしたのに。その時の自分は、自分が罪を犯しているなんて思いもしなかった。

あのとき欲しかったのは 金でも肩書きでもなかった。

おかえり、って言ってくれる・・・偽物でもいい家族だったのに。
殺したんだ。

信じてくれた人たちを 裏切ったんだ。

なのに 奴らは、よくやった 偉い って 偉いってほめるんだ。

 

言いたいことがうまくまとまらない。思いつくまま、震えた声で告白する。

「わからなくなった。俺は罪を犯したのか? 賞賛に値する何かをしたのか?

なぜ俺は罰せられない?

神は何を見ている?

善人が虐げられ殺され、殺した側はのうのうと生きているだと?


殺されたのは 悪か? 悪を殺した俺は 正か?」

ねこは首を振った。シェルの目をみて。

「もう、いいよ」

「神はいたんだ。俺に罰を下した。
俺は眠れず死ぬ。そうやって、裁かれるべきだろう」

「神様なんていないの。いないんだよ シェル」

ねこはきっぱり否定した。

「あなたはねむっていいのよ」

「じゃあ、俺の罪はどうなるんだ・・・?」

「いつか 償う日が来るかもしれないし、罰せられる日がくるかもしれない。
でも眠れず死ぬなんて言わないで。
シェルは本当はどうしたいの」

本当に望むことー

「俺は・・・ 断罪されるその日を 待つ」

ずっとあの日から、全てを疑って見てた。
でも、正しい答えは、自分の望んでいた答えはこれだと思った。

罪は裁かれねばならない。もし自分が裁かれないままだと、
すべてが間違って見えたまま生きてしまう。

 

「その日まで、君といたい。」

本心だった。

ねこは「うん」と答えるかわりに、シェルの手をとる。

 

 

あの家路に立つ日はまだ 向こう
いつか 誰かが 俺を裁く日まで
この手と一緒に

 

 

 

 

夕焼けが病室を明るく照らした。

 

 

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CHAPTER 1 END →  NEXT CHAPTER 2 DARIA  PREVIEW?


一度書いてみたかった「あとがき」 about CHAPTER 1;

ある小説サイトを読みました。
私はいままで小説は、本でしか読んだことが無かったので 無限にサイトがあることを知ってビックリ、
話のおもしろさに驚きました。本では味わえない 横書き文章、意のままのスペース、間。
イメージにあった絵や写真をはりつけて 自分の描く世界を人に見てもらえることができる場所があったのだ、
そう気付いた途端、私もやってみたい!!そう思い、自分には珍しいハイスピードでこのサイトを作った次第です。
色々一人でワクワクしながら作ったこの第一章は なんだか感慨深いッです。

「眠れぬ男と眠り姫」 はサクラミズの考える物語では
プロローグ的な存在です。 来週から”本編”をちょこちょこ書いていこうと予定してます。
ここまで読んでいただきありがとうございます ★ CHAPTER 2でお会いしましょう

2003.6.1 サクラミズ


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